「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」というビジョンのもと、”アタラシイものや体験の応援購入サービス”「Makuake」を中心とした各種産業支援サービスの運営や、企業の研究開発技術を活かした製品プロデュース支援事業「Makuake Incubation Studio(MIS)」などを手掛ける、株式会社マクアケにてCTOを担う生内洋平さんにマネジメントの極意についてお聞きしました。
生内 洋平|株式会社マクアケ 取締役 CTO
大学在学中に音楽活動兼レーベルの運営を担い、卒業と同時に株式会社アニー・デザインオフィスに入社し、デザイン・アートディレクションの修行を開始。数年間インディーズミュージシャン、デザイナー、エンジニアを兼職。
その後、デザイン~開発プロダクションの株式会社デザインバンクを独立創業。プロジェクトベースでのアート・ディレクション、開発プロジェクトに携わる。
2013年株式会社Socketを創業、CTOとしてWEB接客ツールFlipdeskの立ち上げを担当。2015年に同会社のバイアウトを経てKDDIグループSyn.HDに参加し、株式会社Supership、CTO室で400人体制の開発体制作りの業務に携わり、2017年にSupership株式会社を退社。
その後、各社顧問を経て現職株式会社マクアケに就任。CTO officeの設立などを担当。
メンバー目線を理解する
--初めてのリーダー経験から学んだことは何ですか?
初めてのリーダー経験は、デザイナー時代に後輩ができた時でした。そこで、メンバーが、アサインされた仕事に対して興味が持てるようにするために、メンバーの目線理解するをことが大切であるということを学びました。
私も当時は、自分にできることは相手にもできると勘違いしたまま突き進んでしまったため、プロジェクト進行がうまくいかないことがありました。
例えば、新卒のメンバーに対して本人のレベルを大きく超えた仕事を任せるなど、メンバーの「荷が重い」という気持ちと私の「君たちならできる」という期待の間にギャップが生まれてしまっていたのです。
結果的にメンバーに無理をさせてしまうことになり、それが成果物のクオリティに影響し、そのクオリティを保つためにチームのカバーに自分が入り、むしろ自分の仕事量をさらに増やしてしまうという悪循環にはまってしまった経験があります。
また、私が管轄するチームにふられたあるプロジェクトに対して、メンバーがよく理解していない部分があるまま仕事を任せて進めようとしてしまい、なかなかうまく進行できないという状況に陥ったこともあります。
これらの経験から、リーダーとしてメンバーそれぞれが持つ特技や能力・興味の強さを見極め、その力を最大限発揮できるようなミッションを任せることが重要であると気付かされました
やはり、メンバーが任せられた仕事をよく理解し、背景に納得できていた方が走りやすいですし、仕事や成果物に対して愛着を持てますよね。結果的に、その方が成果にも繋がりやすいことを実感しました。
--仕事や成果物に対する愛着とはどういったものですか?
自分の作った成果物がどのようなものか、何につながるのかに興味を持つことで、「これは自分がやった仕事だ」という誇りを持つということです。
こういった想いがあるかどうかがモチベーションにも影響していき、さらに成果物のクオリティにも影響していきます。
一番良くないのは、単純にタスクを進めた結果として、特に区切りもなく気づいたら納品されているような状態です。
そのような状態では仕事と成果物に対する愛着が持てず、モチベーションも低下してしまいます。
そのために、リーダーが真っ先にチームの仕事に興味を持ち、実現するべき価値について深堀することでメンバーに対して熱量をもってその仕事の価値を共有することが必要です。
こういったことはメンバーの目線を理解し、メンバーのモチベーションがどこから来るものなのか考えなければ分からないことだと考えています。
メンバーに合わせた最高の戦略
--個性や価値観の違うメンバーをまとめる際に大切なことは何ですか?
自分自身の中にある課題解決の「普遍的な正解」にこだわらず、メンバーのスキルや経験、物事の考え方に合わせながら解決方法を考えていくことです。
事業のバリューになる課題に対してチームで取り組む際、課題の解決アプローチはチーム単位で変わってきます。なぜなら、チームによってメンバーが違うからです。メンバーが違えばメンバーの持つスキルや価値観なども異なるため、その活かし方も変わってきます。
一定の課題解決の経験を経たリーダーが、「自分のやったことがある方法や一般的な解決フレームワークに準じた課題解決の進め方」を元に行動してしまう場合があります。
しかし、そこでメンバーの特性を軽視してしまうと、そのチームにおける最高の戦略にはなりません。
--メンバーに合わせた最高の戦略を見つけ出すためにリーダーがすべきことは何ですか?
チームメンバーの持つスキルを広い意味でとらえ、様々な角度からそのスキルを見ることで、その人が興味を持ちやすいものは何かを見つけ出すことです。
例えば、UIデザインが得意なメンバーがいたとします。
UIデザインとはユーザーがwebサイトをスムーズに使えるようにそのサイトをデザインすることです。つまり、そのメンバーは常日頃からユーザーが何を考え、何を望んでいるのか、加えて、どうやったらそのユーザーの望みを実現できるのか、を考えているということにもなります。
これらをさらに抽象化していくと「思慮・配慮のスキルがある」「人の気持ちを考え、それにこたえることができる」と考えることができます。
このように所持スキルの抽象度を上げて解釈することによって、どのような部分に興味があるのか、どのようなことが得意なのかを多角的に知ることができます。
興味と仕事を全て一致させることはできませんが、抽象度を上げてスキルの解釈を広げていけば、その分メンバーの興味があるものと重なる範囲が広がっていきます。
それによって、メンバーの持つ興味や得意技と共通点のある仕事をアサインしやすくなります。
共通点のある仕事であり、リーダーからの示唆などを通じてメンバー本人がそれにちゃんと気付いていればれば、先ほど伝えた仕事への愛着が持てるので、高いモチベーションを保つことにつながり、チームの生産性が向上します。
メンバーの興味を仕事に活かせている状態こそ、チームにとっての最高の戦略が実行できている状態だと思います。
長期を見据えたゴール設定でメンバーの成長を促す
大切なのは、近い目線で見える要素だけを考慮してゴール設定するのではなく、長期的かつ高い目線をもって、メンバーと事業の両方が成長できるゴール設定を行い、現在の状態との差分を把握し、常にアジャストし続けることです。
まず前提として、事業に価値をもたらす大きなビジョンがあるからこそ、チームというものは存在しています。
目の前の仕事をこなしていくだけではそのビジョンの達成、つまり事業として素直に喜べる水準の成果を継続的に出し続けることができません。
その状態では仕事を自分事として考える事ができず、タスクを淡々とこなしている状態になってしまいます。
目の前の仕事をこなすだけでなく、現在取り組んでいる仕事が次のどの仕事に繋がるものなのかというのを常に意識で切る環境を作ります。
そうすることで、仕事を自分事化し、チームの存在意義を常に感じられるようになります。
結果として常に上にある事業目標に向かって、そこに繋がるゴール設定をしていくことがメンバーの成長に繋がります。
また、高い目標を見て逆に自信を無くしてしまい、モチベーションを低下させてしまうメンバーに対しては中間ステップとなる目標を設定し段階的に進んでもらうようにしています。
そういったメンバーは高い目標に対して、実現する想像がついておらず、モチベーションが追い付いていない状態になっているためです。
高い目標を達成するために必要ないくつかのポイントの中で想像力が追い付くような、つまりピンと来る中間目標を探し出し、そういった目標をクリアして想像力が及ぶ目線を徐々に高めていきます。
つまり、リーダーはメンバーと事業、双方の成長のために、ゴールを示し続け、そのゴール自体も状況に応じて調整していく必要があるということです。
-長期的なゴール設定を行うとありますが、その際にリーダーがすべきことは何ですか?
課題の優先順位を決定するための基準を最初に作り上げておくことです。
なぜなら、優先順位をその都度決めるのではなく、基準を先に作り上げておくことで、優先すべき課題が明白になり、その順位の変更もスムーズに行えるためです。
多くの場合、プロダクト周辺には解決したい課題がたくさんあり、全て周辺には解決する計画を立てるとなると3年~5年先を見据える必要性がき出てます。
しかし、メンバーのキャリアとなると3年後、5年後の目標は抽象度の高いものになってしまいます。
しかし、全てを解決しうる期間の全てを具体度の高いロードマップとして考え始めてしまうと時間がいくらあっても足りません。そのため、直近1年よりも後の期間で解決する予定のものについては、着手したい課題の優先順位だけを先にイメージしておきます。
プロジェクトが進行するにつれて解決したい課題の解像度は上がっていき、そこで優先度も変わる可能性が出てきますから、リーダーはそれをメンバーが判断しやすいように「優先順位を決める仕組み」を先に設定しておくのです。
その仕組み作りの基準の一つとして「結論、出る価値が最も高いもの」を優先するというのがあります。
例えば、会社には事業としてその時最も重視したい観点があります。それがメンバーにとっても優先度が高くなる仕組みを意識しよう、というわけです。
このように、「結果的に出る価値が事業にとって最も効果的なもの」の優先順位が高くなるという基準をあらかじめ作っておけば、それに応じてほかの仕事の優先順位を決めやすくなります。
それを作り上げてメンバーが自動的に優先順位を作成できるように促していくのがリーダーの役目の大きな1つです。
組織の理想形は逆三角形
--生内さんがマネージャーとして意識されていることは何ですか?
最も大きな軸は「チームが常に変化に敏感であること」です。
専門職は技術業界の変化に、マネージャーは事業環境の変化に、それぞれが興味を持ち続け、動向を追いかけることで、どんどんポテンシャルが向上していく技術を事業のどこに活用すべきなのかを適切に判断することができるようになります。クリエイティブ業界は進化が激しく、次々と新しい手法が出てきます。
新しい手法が出てきたときに、技術と業界の変化に興味があれば、こういった技術がどの範囲に活用できるのかを見抜き、活用することができます。
また、進化した部分のみを見るのではなく、どのように進化してきたか、つまりストーリーを知ることで、事業にとって有用なポテンシャルを引き出せるタイミングがいつなのか?といった勘所を持つことができるようになります。
事業においても同じことで、今現在見据えているマイルストーンがなぜ今このタイミングでマイルストーンとして設定されたのかということを理解するためには、その結論に至るまでに超えてきた過去のマイルストーンについて知っておく必要があります。そうしなければ、現在行っている業務に対して抱いている興味が十分とは言えず、仕事の意義も感じづらくなってしまうのです。
技術業界、事業、それぞれが進化していくプロセスをメンバーが理解していくことで、使っている技術や事業に対するメンバーの興味の幅が広がります。それによってメンバーがよりマイルストーンに対してストーリーを持ったうえでそれを楽しめるようになります。
特にクリエイティブ業界では、優秀なメンバー達はもれなくそうした変化に対して興味を持ち、変化のストーリーそのものを楽しんでいます。
そうした楽しみはリーダーやマネージャーの振る舞いによってメンバーに伝播していきますから、クリエイティブ組織のリーダーやマネージャーは、自らがストーリーを楽しむことを体現すべき存在であると考えています。
--生内さんの考えるリーダーにとって重要な要素はどのようなものかお聞かせください。
明確な指針や目標を持つことに成功したあとのプロジェクトにおいては「ものを作る」主役はメンバーであり、彼らの力を最大限発揮できる環境を整えるために「チームを最適化し、チームを強くすること」もまたリーダーの仕事であるということを自覚することです。
私は組織の形はマネージャーが作る土台の上にリーダーがいて、さらにその上にメンバーがいるという逆三角形だと思っています。
ものを作っているのはメンバーであり、リーダーが作っているのはチームです。リーダーはメンバーの力を最大限に発揮するための土台作りをしなければなりません。メンバーの土台になっているのがチームであるということです。
--リーダーとマネージャーはどのように異なりますか?
組織にある制度に対し、リーダーはメンバーと同じくそれを「評価する」立場です。対してマネージャーはリーダーやメンバーが働きやすい環境を制度として実現し、その制度をリーダーやメンバーから「評価される」立場であるという点で異なります。
マネージャーになると管理すべき範囲が広がるため、次々と増え続けるメンバーとそれぞれコミュニケーションをとることが難しくなります。
だからこそ、メンバーの意図を汲み取り自らのポリシーを織り交ぜて制度を作成する、またそのためにも制度を作り上げる土台となるカルチャーを作り上げることが大切です。
そのカルチャーが強固であればあるほど、それを土台として現場の意見をより反映した具体性の高い制度を作ることができます。
つまり、リーダーがメンバーを支える土台となり、マネージャーはリーダーとメンバーをまとめて支える大きく強固な土台を制度という形で表現するということです。
リーダーを志す若い世代に向けて
--初めてリーダーを経験された自分自身にアドバイスするとしたらどのような言葉をかけますか?
プレイヤーとして自分自身だけが主役であった時代はここで終わり、ここからは次の主役を作り上げるためにみなに愛してもらえるチームを作る努力を始めてください。
あくまでも、「ものづくり」はプレイヤーの仕事であり、そこにおける主役はメンバーであってリーダーではありません。
主役たちの才能をできる限り大きく引き出すために、愛されるチームを作ってください。