「エンジニアリングと組織の間にある全ての問題を解き明かす」というビジョンを掲げている株式会社レクターの代表取締役であり、 「テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに」というミッションを掲げ、日本経済の発展に資することを目的とする一般社団法人CTO協会の理事も務めておられる広木 大地氏にリーダー論を伺いました。
広木 大地|株式会社レクター 代表取締役社長 一般社団法人日本CTO協会理事
1983年生まれ。筑波大学大学院を卒業後、2008年に新卒第1期として株式会社ミクシィに入社。
同社のアーキテクトとして、技術戦略から組織構築などに携わる。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。
現在は、株式会社レクターを創業し、技術と経営をつなぐ技術組織のアドバイザリーとして、多数の会社の経営支援を行っている。
著書『エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』が第6回ブクログ大賞・ビジネス書部門大賞、翔泳社ITエンジニアに読んでほしい技術書大賞2019・技術書大賞受賞。
一般社団法人日本CTO協会理事。
朝日新聞社社外CTO。
株式会社グッドパッチ社外取締役。
初めてのリーダー経験について
--初めてリーダーを任された時のお話をお聞かせください。
技術的に高度な課題に対応するCTO直下のスペシャリストチームのリーダーを任されたことが初めてのリーダー経験になります。
そのチームでは高い専門性と経験豊富なエンジニアメンバーが集まり、技術的に最も困難な課題を解いたり、無駄な仕事をなくすための本質的な改善を担っていたチームでした。
メンバー全員が私よりも年上で、エンジニアとしても経験豊富な方たちだったため、管理していくというよりは、各々が持っている力を最大限発揮できるようにするかという前捌き部分を特に意識していました。
全社的なプロジェクトに入り込んでいくことも多かったので、ステークホルダーとの調整や、仕事のアサインについても、ただタスクを割り振るのではなく、いかに面白くてやりがいのある仕事にアレンジして差配するかを考えながら取り組みました。
表出した問題の解決だけでなく、本質的な課題の解決や、ITを用いてどう仕組み化を実現するのかという依頼をすることを意識していました。
意思決定することがリーダーの使命
--リーダーをする際に大事にしていることについてお聞かせください。
リーダーというと多くの人がメンバーを鼓舞したりサポートしながら、チームをマネジメントしていくマネジメント要素やコーチングの要素をイメージすると思いますが、 絶対間違えてはいけないのは、意思決定する権限が自分にはあって、自分の意思決定でしか仕事が進まないという立場だと認識をすることです。
メンバーから提案が来て、それをただやるというだけでいいのであれば、それはリーダーとして幸せな状態ではありますが、実際の仕事の場面ではそうではなく、メンバーの人の大半が反対するかもしれないことであっても、チームに必要なことであれば、その意思決定をしなければいけません。
趣味としてやっているリーダーと仕事としてのリーダーには優先順位の違いがあります。
趣味としてやっているものの優先順位は、参加者やそのプロジェクトに関わった人全員が楽しい状態を作ることで、最終的に成功しようと失敗しようと、それは良い思い出になります。
しかし仕事においての優先順位は良い思い出をつくることではなく、プロジェクトを成功させ会社をより成長させていくことになります。
だからこそ、その時にしている仕事が従業員一人一人の楽しさや、その瞬間で従業員が良いと思うことと結びついているとは限らないですし、そうでないことの方が多いこともあります。
そしてリーダーがチームにとって必要な決断するという立場だという意識を持っていなければ、皆の話を聞いて皆の言う通りにやっていこうという状態になってしまうこともありえます。
この状態に陥ると、どんどん誰も決めない組織になってしまいますし、誰もリーダーシップを発揮することができなくなってしまいます。
だからこそ、リーダーとしてメンバーの意見だけを聞いてそれを実行するのではなく、リーダーにしかできない意思決定をしていくことを大事にしています。
また、心理的安全性についても正しく捉えておくことも重要です。
発言者が対人関係のリスクを負わずに発言や意見ができるという状況が、心理的安全性の言葉の意味です。
つまり意見をバンバン言っても、それが理由で組織から外されることや、何かひどい目に合うことがないということが、チーム全体で共有されているからこそ、建設的な意見や提案をばしばしできるというものです。
よくある勘違いとしては、誰も職場で嫌な思いをすることなく過ごせる状態が心理的安全性だという風に捉えてしまうことです。
何か仕事しようとしていたら多かれ少なかれ、課題や乗り越えるべき壁が出てきます。
誰もが嫌な思いをせず、ぬるま湯に浸かっている状態を心理的安全性だと捉えてしまうと、誰ももう本当の問題に向き合っていない状態になってしまいます。
何かを目指してやっていこうという辛さを乗り越えてた上で、成果に繋がるからこそ取り組んで良かったと達成感が生まれます。
そのためにはぬるま湯な環境ではなく、本質的な心理的安全性が必要です。
プロジェクトを成功させるために
--プロジェクトを推進する際に 重要だと考えていることをお聞かせください。
プロジェクトを成功させるには、チーム内で目指すべきゴールと正しい危機感、責任感が共有できている状態を作りあげることが重要です。
どのように上手くプロジェクトの設計をしていても、進めていく中で課題やトラブルは絶対に生まれます。
その際に、正しい危機感がなければ課題を見逃してしまうことや、個人の役割の隙間に落ちてしまったボールを誰も拾うことが出来なくなってしまい、後々に取り返すがつかなくなってしまうこともあります。
そのため、プロジェクトキックオフのタイミングで、目指すべきゴールを明らかにすること、正しい危機感と責任感を持てるような取り組みを実施しています。の意識を作るようにしています。
また、プロジェクトの進捗を作業量だけで管理しているリーダーは失敗する傾向があります。
作業が進むこと自体が重要なのではなく、意思決定の量が増えるから成功するという認識を持っていることが重要だと考えています。
プロジェクトが遅延する要因として、未決定事項による検討時間が膨らむことが最大の要因です。
意思決定をすればするだけ、プロジェクトでその後に取りうる選択肢の幅が狭まってきます。そうすると起こりうる問題や、今やらなければならないことも狭まってきます。
その狭まった状態から必要なものを選択し、意思決定し続けることがプロジェクトを推進するための秘訣です。
リーダーに必要な資質
--リーダーに必要な資質はどのようなものがありますか?
リーダーに必要な資質は3つあります。
まず1つ目は「逃げないこと」です。
意思決定に伴う孤独や責任から逃げずに、向き合うことが大切です。
2つ目は「意思決定の軸をぶらさない」です。
意思決定の軸をチームに提示したときに、プロジェクトやチームメンバーはこの軸を元に動きます。
しかし、その軸がぶれていたり、都度リーダーに相談しなければ決まらないとなってしまうと、メンバーもどのような軸をもとに判断して動いていくべきかわからなくなってしまいます。
3つ目は「人を見ることができること」です。
人を見るということは、その人が何を出来るのか、何を感じているのかといったことをキャッチし続けることです。
メンバーそれぞれに向いている仕事を任せ、フォローアップしながらプロジェクトを推進していくためには、そのメンバーのキャパシティや感じていることをキャッチする必要があります。
この3つの資質があれば、経験や技術力といった他のスキルセットは後々身についていくと考えています。
また、成功しているリーダーは「私ならできる」といった一種余裕のある表情を作っていたり、誰に対しても自身の意見を発言できるオープンマインドや物怖じしないマインドを持っていることが多いです。
仕事はポーカーゲームみたいなところがあると感じていて、自身の手札が何であれ「できますよ」といった顔をしていないとそもそも仕事の調達はできません。
そのゲームに勝つことで自身の信頼度が更に高まり、信用にレバレッジが効くことで、さらに大きなゲームに参加するチャンスにつながっていきます。
更にリーダーになる前からリーダーになるべき人はもうそもそもリーダーシップを持っている方が多いですし、リーダーシップに関しては特別な能力が必要なわけでも、才能が必要なわけでもなくて、まずその旗を立ててそこに向かって必要なことをやっていく意思があるかどうかが大事だと考えています。
リーダーへのアドバイスについて
--リーダーへのアドバイスをお聞かせください。
自分を開示すること、そして弱さを見せることの大切さを改めて伝えたいと思います。
リーダーが陥りがちな罠として、完璧なリーダーを目指してしまう場合が多いです。
ただ、人というのは完璧な人だからその人についていこうと思うわけではありません。
人間的な弱みや面白さであったり、この人といたら良い経験ができそうだなと思うから人はついてきます。
弱みや苦手なところを知っているからこそ、そのリーダーを助けようと考えてくれます。
完璧な人なら「完璧なんだから一人でやりきってよ」と思ってしまうものです。
だからこそ、自己開示をして自分自身のことを知ってもらい、自分の弱さを見せることで自分と一緒に仕事をしたいと思ってもらえるようにすることが重要だと考えています。