1. 傾聴力とは
傾聴力とは、ただ相手の話を聞くだけではなく、相手の感情や伝えたい内容を理解することで信頼を得る力です。
経済産業省が「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事するうえで必要な基礎的な能力」として設定した「人生100年時代の社会人基礎力」の要素にも、「傾聴力」が含まれています。
チームでのコミュニケーションにおいて、傾聴力を高めることは相手の話を深く理解するだけでなく、人間関係を構築する上で大変重要です。
「傾聴力」だけでなくリーダーに求められる能力について知りたい方はこちらの記事をご一読ください。
2. 傾聴力の鍛え方
傾聴力がある人というのは具体的に何をしているのでしょうか。
ここでは4つの方法をご紹介します。
積極的傾聴法(Active Listening)
アクティブリスニングとは、相手の話す言葉を単に聞くだけでなく、その背後にある意味や意図を理解しようとするコミュニケーションスキルです。
そのためには、会話に積極的に参加する姿勢が必要です。
具体的な例とともに、5つのコツをご紹介します。
非言語コミュニケーションを意識する
非言語コミュニケーションとは、表情や声のトーン、身振り手振りなどの仕草、服装やその場の空間など、話している内容以外のコミュニケーションのことを指し、ノンバーバルコミュニケーションとも呼ばれます。
傾聴力の高い人は、話す内容だけでなく、身体全体や空間を意識してコミュニケーションを行います。
例
- ポジティブな話題について話す時は特に笑顔で滑舌良く話す
- 話す相手や場面においてアイコンタクトや目線の動きを意識する
- 重要なことを言うときは間の取り方を意識したり、ボディランゲージを活用したりする。
- 相手が話している時、特に対面で1対1で話す際は前かがみで話を聞く
NG例
- 身だしなみに清潔感がない
- 公共の場なのに声が大きすぎる
- アイコンタクトを意識しすぎて、シャイな人が話す際にも目をじっと見続ける(威圧的だと感じられる場合があります)
- 頬杖をついたり、あくびをしたりしながら話を聞く
またオンラインミーティングでは、対面と比べて顔以外の部分の動きが分かりにくく、ボディランゲージをすることが難しくなります。
そのためボディの代わりに手を顔の周りに持って動かすハンドジェスチャーを活用することもあります。
例
- 「広げる」「増やす」「伸ばす」という動詞を強調したい場合、両手を広げるハンドジェスチャー。
- 他のメンバーや相手からの良い知らせや報告に対して共感だけでなく、賞賛を表現したい場合、グッドサイン。
- 他のハンドジェスチャー:拍手、 OKサイン、挙手。
適度なタイミングでリアクションを示す
アイコンタクトや相槌といったリアクションを適度なタイミングで行うことも重要です。
ただし、相手の話を遮るほどリアクションを行うのは逆効果です。
会話相手の話すリズムやその場の雰囲気を考慮して、効果的なリアクションが取れるようになると、相手が気持ちよく話すことができます。
例
- 相手が感情を込めて話していると感じた場合「はい」、「おっしゃる通りです」
- 相手が説明している場合「そうなのですね」、「知らなかったです」
同時に、アイコンタクトが多すぎて会話が変になるのも避けたいところです。
そうならないためには、「50/70ルール」を活用してみましょう。
「50/70ルール」とは、
話を聞いている時間の50%から70%の時間に、アイコンタクトを維持し、4~5秒間その状態を保ち、短く目をそらす
というものです。
また、リアクションの仕方として、ミラーリングも効果的です。
ミラーリングとは、話し手の表情を無意識に反射的に真似してしまう現象です。
相手の動作や表情、会話などをさりげなく同調させて真似することで、 相手の話をきちんと聞いているアピールにもなりますし、感情的な場面では、共感や興味を示すことができます。
相手のペースや声のトーンに合わせるとさらに効果的です。
相手がゆっくり話していて、自分は早口なのであれば、相手に合わせて自分の話すスピードも遅くしてみましょう。
また、相手が使う言葉やフレーズを繰り返すこともミラーリングのよい例です。
例
相手が
「この件で悩んでいるんです」
と話した場合、
「悩んでいるんですね…それでは今一緒に解決策について考えてみましょう」
と言いながらアイコンタクトを合わせると、相手に真剣に向き合っている姿勢を見せることができます。
さらに相手が話を広げられるように、質問につなげられるとなお良いでしょう。
前話した記憶があれば、付け加えてみましょう。
例
相手が
「先日、新しい趣味を始めたんですよ」
と話した場合、
「おお!新しい趣味ですか、前にサーフィンやっているっておっしゃっていましたよね。今度はどんな趣味ですか?」
と前にした会話の記憶から質問につなげられると良いでしょう。
NG例
「あ~」「そうだよね」「わかります」「確かに」「なるほどね」などといったリアクション
タメ口や軽薄なリアクションは初対面や目上の相手には失礼です。
気を付けましょう。
相手の発言を言い換え・整理して反復する
相手の話を聞いて、それを反復すると、話し手は聞き手に対し「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれている」と感じます。
より分かりやすく話した内容を構造化し整理して言い返すと、頭が切れる印象を与えます。
また、そこから5W1Hなどのフレームワークを意識した具体的な質問をすることで話を広げることも可能です。
自身のロジカルシンキングを鍛える事で、傾聴力だけでなくそれに続く会話の質を上げることができます。
例
相手が
「〇〇の時はAさんと□□して、△△の時は~で大変でしたが@@で乗り越えました。」
と話した場合、
「そうだったのですね。○○の時は□□、△△の時は@@で達成されたのですね。それは大変ですね。」
と反復し、
「実際、解決までにどれくらいの費用や時間がかかりましたか」
と質問につなげられれば完璧です。
NG例
相手が話している最中に
「それって〇〇ってことですよね?」
と遮るのは失礼です。
相手の会話内容の整理や反復のタイミングには気を付ける必要があります。
必ず相手が話し終わってから話し始めましょう。
また、自分の認識を相手に確認する際は
「それは〇〇という認識で合っていますでしょうか?」
といった口調のほうが望ましいでしょう。
言い換えが難しい、なかなか思いつかないと感じる方は、普段から類義語や類似した概念について意識して調べたり、考えたりする癖をつけると良いでしょう。
ボキャブラリーや概念はある程度知っているが、いざ会話の中ですぐにパッと出てこないという方は、アナロジー思考を鍛えるのも有効です。
アナロジー思考とは、類似した概念の構造や関係性から類推し、応用する思考法です。
近年はアナロジー思考に関する書籍が多く出版されています。
書店で見かけた際にチェックしてみるのも良いかもしれません。
オープンクエスチョンをする
聞き手は、YesかNoかで終わるクローズドクエスチョンではなく、自由な意見を引き出せるオープンクエスチョンをすることで、話し手の思考を深ぼることが可能になります。
適切な質問をすることで、聞き手は話し手が言っていることに興味を持っているということを補強することもできます。
ただし、文脈に沿った質問でない場合、期待していた内容の答えをもらえない場合があります。
例
「〇〇さんは部下が落ち込んでいるときはどのように対処されますか」
「マネジメントで一番大切にされていることは何ですか」
今までチームのマネジメントの話をしていたのに、
「では、おすすめの書籍はございますか?」
と聞くと、質問の意図を理解しづらく会話相手を困らせてしまう可能性があります。
あまりにも文脈から離れたオープンクエスチョンをする際は、質問の前に前振りをする必要があります。
上記の例で言えば、
「ありがとうございます。同じようにチームのマネジメントで悩んでいる方にお勧めの書籍はございますか?」
のように質問できます。
判断や助言を控える
中立的で偏見のない返答をすることで、相手は安心して自分の考えを話すことができます。
相手は恥をかかされたり、批判されたり、非難されたり、その他の否定的な評価を受けることはないと信頼して話すことができます。
特に、リーダーからメンバーに対してフィードバックとしての発言をしたつもりでも、メンバーからするとお説教をされていると感じられてしまうことがあります。
この場合、リーダーはメンバーの状況や考え方に対して適切に聞き、共感できていないまま、主観的な意見を発言している可能性があります。
例
- 相手やその状況に共感する
- 異なる人々や文化、考え方について知識を深める
- 相手を批判していないか常に内省し、していた場合はその考えを止める
一方で、相手の意見に対し理由や背景も聞かずに「それは違うと思います。」と言うのはNGです。
自分の意見を持つことは良いことですが、相手に押し付けることは控えましょう。
自分の考えと相手の意見が違っていたとしても、「自分とは違うだけであり、間違っているわけではない」と意識する必要があります。
可能な限り理解しようとする姿勢を示すことが重要です。
問いかけ
2つ目に紹介する方法は、「問いかけ」です。
安斎勇樹氏著書の『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』によると、「チームは問いかけから作られる」とあります。
「問いかけ」とは、
チーム全員が主体的に議論に参加したり、発言したり、役割を考えることで、一人一人が個性や才能を活かしてチームに貢献できるようにするアプローチ
の一つです。
例えば、誰も発言しないミーティングで、
「アイデアを一つだけ挙げるとしたら、今何が思い浮かびますか?」
といった「問いかけ」の工夫をすることで、チーム内で発言がしやすくなり、話し合いの空気を変えることができます。
『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』によると、「問いかけの基本定石」として以下の4つが挙げられています。
- 相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
- 適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
- 遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
- 凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
これらを意識して「問いかけ」を行うことで傾聴力を高め、チームの結束力や創造性を高めていきましょう。
『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』にはその他テクニックについて細かく解説がされているので、参考にすると良いでしょう。
引用元:安斎勇樹 (2021)「問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術」 ディスカバートゥエンティワン
メモを取る
傾聴力を鍛える方法の一つとして、メモを取ることが有効です。
メモを取ることのメリットは3つあります。
まず、後で再び振り返ることができるので、情報をより正確に記憶することができます。
また、同じ相手との会話の際に、メモに書いた内容を取り上げることができるため、相手との関係を深めることができます。
さらに、メモを取る行為そのものを相手に見せることで、自分が関心を持っていることや相手の話を大切に思っていることを示すことができます。
これにより、傾聴力を高められるだけでなく、相手に良い印象を与えることができます。
例えば、1on1中にメモを取ることで、メンバーの成長や目標達成に関する重要な情報を記録することができます。
後でメモを見返し、達成すべきマイルストーンや具体的なアクションプランを確認し、メンバーの進捗を追跡することで、効果的な1on1を実現することができます。
ただし、会議中にスマートフォンでメモを取ることは避けましょう。
スマートフォンをいじることで、相手に無関心な印象を与えてしまいます。
また、メモを取るために一切目を合わせず、ただ黙々と書き続ける事もNGです。
相手とのコミュニケーションが欠如し、関係を深めることはできません。
沈黙に耐える
人と話す際、沈黙したときに焦って早口になったり、すぐに話し始めたりしてしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし、相手が沈黙している場合は、話し手が自分の考えをまとめている可能性があります。
また、会話のスピードや考えるタイミングは人によって異なります。
忍耐強く相手の会話のペースに合わせていくことが傾聴力を鍛える第一歩です。
ミーティングで、プレゼンターが重要なポイントを説明している最中に数秒間の沈黙が生じ場合、参加者は沈黙に耐えることで、プレゼンターが次の内容を整理している時間を与えることができます。
沈黙に耐えられないからと参加者が急いで話してしまうと、相手の話を十分に聞き取れず、プレゼンターも余計に焦ってしまい、ミーティングの内容が表面的な内容にとどまってしまいます。
沈黙は会話に集中するために必要な要素でもあります。
また、相手が自分の考えを整理しているのではなく、実際にあなたの発言を待っている場合もあります。
この場合は、適切なタイミングで発言し、話を進めることが重要です。
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3. 傾聴力を下げるやってはいけないNG行動
2章では傾聴力の鍛え方をご紹介しました。
傾聴力を上げるには、鍛えるだけでなく、傾聴力を下げてしまう行動を避ける必要があります。
本章では、相手とのコミュニケーションや信頼関係を損ない、傾聴の効果を減少させる可能性があるNG行動を7つご紹介します。
話を遮る
相手が話している最中に割り込んで自分の意見や話題を押し付ける行為は、どんな人がされても心地よいものではありません。
これは相手の話を尊重せず、会話の流れを乱すことになります。
話を聞き流す
相手の話を注意深く聞かず、何か別のことに気を取られている状態です。
これは相手の気持ちや思いに対して無関心な態度を示すことになります。
批判的な態度
相手の話や意見に対して否定的な態度を示すことです。
これは相手の気持ちや意見を尊重せず、建設的なアドバイスを述べない場合、対話を妨げることになります。
自分の話ばかりする
相手の話に対して自分の話題ばかりを持ち出し、相手の話を軽視してしまうことです。
これは相手の意見や気持ちに十分に耳を傾けないことになります。
相手をジャッジする
相手の行動や意見に対して、過度に評価や批判を行うことです。
これは相手の自己表現や自尊心を傷つけ、コミュニケーションの円滑さを損ないます。
他のものに気を取られる
会話の中で、周囲の状況や他の刺激に注意を向けることで、相手の話に集中しない行動です。
これは相手に対する無関心を示し、傾聴の効果を薄めます。
態度や表情が無関心
相手の話に対して興味や関心を示さず、無表情な態度をとることです。
これは相手が話を続ける意欲を削ぎ、コミュニケーションの質を低下させます。
4. まとめ
傾聴力とは、相手の話に対して真剣に耳を傾け、理解しようとする能力のことです。
傾聴力を上げるためには、積極的な傾聴法やコミュニケーションテクニックを使うことが重要です。
最後に、傾聴力の鍛え方を以下にまとめました。
積極的傾聴法のポイント:
非言語コミュニケーションを意識する
適度なタイミングでリアクションを示す
相手の発言を言い換え・整理して反復する
オープンクエスチョンをする
判断や助言を控える
問いかけのポイント:
相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
他の傾聴力の鍛え方:
メモを取る
沈黙に耐える
積極的な傾聴法やコミュニケーションテクニックを駆使し、NG行動を避けることで、より良い傾聴力を発揮できます。
傾聴力を鍛えることで、相手の思いや意見を尊重し、より深いコミュニケーションを築いていきましょう。