暗黙知は、個人の経験や感覚に基づく非言語的な知識でありながら、非常に重要な役割を果たしています。
このような暗黙知の重要性は、日本の「勘と経験」という文化にも見受けられます。日本人は古くから、ビジネスの現場においても経験から得た勘を重んじ、感覚や直感を大切にする姿勢を持ち続けてきました。
しかし、日本の「勘と経験」文化が持つ課題も見逃すことはできません。暗黙知は言葉による説明が難しく、経験者が当たり前のように行動することを、他者が理解するのは簡単ではありません。そこで、暗黙知を「形式知」のように他者と共有しやすい形に変える方法を考えることが必要です。
本記事では、暗黙知についての説明だけでなく、形式知との違い、暗黙知をチームでうまく共有できるためのナレッジ・マネジメントについて解説するほか、暗黙知をチームに活かすためのポイントについても解説していきます。
1. 暗黙知とは
「暗黙知」という用語は、イギリスの哲学者であり物理化学者でもあるマイケル・ポランニー(Michael Polanyi)が1960年代に彼の著書「Personal Knowledge(個人的知識)」で、初めて提唱されました。
ポランニーは、形式知や明文化された知識とは対照的に、人々が言語や論理を使って明示的に説明できない知識があることに気づき、それを暗黙知と名付けました。
本章では暗黙知について詳しく解説していきます。
暗黙知と形式知の違いと例
暗黙知と形式知の違いを一言で言うと、言葉で伝えやすい知識か否かです。
形式知は文書化され、簡単に共有できるため、効率的な意思決定やチーム間の連携に役立ちます。一方で、暗黙知は個人の経験や洞察に基づいており、経験豊富なメンバーがチームにいることで重要なアドバンテージを提供します。
以下に、暗黙知と形式知の違いを、それぞれ詳しく説明します。
暗黙知とは、
言語化や数値化が難しい、人々が経験や実践を通じて得た知識のこと
を指します。
例えば、自転車に乗る方法や自分の仕事でのコツ・人間関係の構築など、一般に言われる「ノウハウ」なども暗黙知の例に該当します。
暗黙知は個人によって異なる場合があり、言葉による説明が難しいものが多く存在します。
一方、よく対比として挙げられる「形式知(Explicit Knowledge)」は、
言葉や図表などの形式によって表現された明確な知識のこと
を指します。
操作マニュアルや作業フローなどが形式知の具体例です。 形式知は共有しやすく、伝達が比較的容易で再現性が重視されますが、暗黙知ほど個別の経験から生まれる価値は小さいことが多いです。
暗黙知を活かすメリット
暗黙知を活かすことには多くのメリットがあります。ここでは主に3つをご紹介します。
1つ目のメリットとして、暗黙知を活かすことでチームの生産性を上げることができる点です。
暗黙知は個人の経験や感覚に基づく独自の知識でありながら、新しいアイデアやアプローチの源泉となります。経験豊かなメンバーが暗黙知を積極的に共有し、新人や若手メンバーに伝えることで、チームのパフォーマンスが向上します。チーム内で暗黙知を活かすことで、変化する環境に迅速に対応し、柔軟性と適応力を高めることができます。
2つ目のメリットは、暗黙知は個人の独自性が強く、他社や競合相手との差別化にもつながることです。
チームが暗黙知を活かすことで、市場での競争力を強化し、優位性を築くことができるでしょう。
3つ目は、暗黙知は顧客満足度の向上にも貢献します。
経験から得た顧客のニーズや要望を的確に共有・理解し、適切に対応することができるためです。暗黙知を活かすことで、顧客に対してマニュアル以上のより満足度の高いサービスを提供することが可能となります。
暗黙知を共有し、個人の持つ知識を最大限に生かす文化を築くことで、チームはより成果を上げることができるでしょう。
2. 暗黙知をチームで共有するナレッジマネジメント
組織ないで暗黙知を共有し、活用するために重要な手法としてナレッジマネジメントがあります。ナレッジマネジメントは、知識の創造・共有・活用を促進する取り組みであり、チーム全体のパフォーマンス向上やイノベーションをサポートします。
本章では特に、暗黙知を共有するためのナレッジマネジメントに欠かせない2つの重要な要素として「SECIモデル」と「ナレッジマネジメントの4大要素」を解説します。
SECI(セキ)モデル
SECIモデルは、野中郁次郎氏と竹内弘高氏によって提唱された知識創造のプロセスを表すモデルです。このモデルを通じて、場面に応じて暗黙知を形式知化すること、すなわち言語化や数値化が難しかった事柄を明確な知識にすることで、個人及びチームの情報を実践的な場で活用することができます。
SECIとは、以下の4つのフェーズの頭文字を組み合わせたものです。
共同化(Socialization)
共同化は、経験を通して暗黙知を他者に移転させるプロセスです。
共同化の段階ではまだ形式知化が実施されていないため、言葉やマニュアルを通じたコツやノウハウの伝授ができません。そのため、体を動かしたり五感を活かしたりして知識を共有できます。
表出化(Externalization)
表出化は、個人が所有している暗黙知を言葉に出し、参加メンバーと共有するプロセスです。個人が蓄積してきた知識や経験を言葉や図や文章で示すことで知識を形式知化します。主観的な知識を共有する共同化に比べ、表出化は客観的かつ論理的に他者に伝えられます。
例えば、朝礼やミーティングで業務の報告を行ったり、業務マニュアルを作成したりする場面が表出化の段階にあたります。
結合化(Combination)
結合化は、表出された形式知を組織内で統合するプロセスです。組織内の他の形式知と組み合わせることで、新たな知識やアイデアを創造します。
例えば、他部署の成功事例を参考に業務効率化を図ったり、複数の社内データを統合して詳細な分析が行えるようにしたりすることです。
内面化(Internalization)
内面化は、新たに得た形式知を個人の暗黙知として取り入れるプロセスです。組織化された知識を個人が吸収し、自らの経験やスキルとして内部化します。これにより、新しい知識やスキルが個人の暗黙知として定着し、実践に活かされます。
新たに導入したソフトウェアをマニュアルなしで操作できるようになったり、他者の仕事のコツを参考にして自身の業務の質が向上したりすることなどが挙げられます。
ナレッジマネジメントの4大要素
ナレッジマネジメントは4つの要素によって構成されています。
人的資源
組織内のメンバーが持つ知識や経験を活用することが重要です。経験豊かなメンバーが他のメンバーに暗黙知を伝える役割や、新人や若手メンバーが積極的に学習する姿勢がナレッジマネジメントにおいて重要な役割を果たします。
仕組みの構築
ナレッジマネジメントを効果的に実践するための手順や仕組みを構築することが必要です。SECIモデルを取り入れた知識の創造・共有・統合・活用のプロセスを整備し、円滑な知識の流れを確保します。
テクノロジー
情報共有のためのテクノロジーが欠かせません。データベースやナレッジマネジメントシステム、コミュニケーションツールなどを活用して、知識のアクセスや共有をスムーズに行うことがナレッジマネジメントには欠かせません。
組織文化
ナレッジマネジメントの成功には組織文化が大きな影響を与えます。知識共有を奨励し、失敗を恐れずに新しいアイデアを受け入れる文化を築くことで、ナレッジマネジメントの効果が最大限に発揮されます。
これらの要素を総合的に取り入れることで、暗黙知をチームで共有し、効果的に活用してみましょう。
3. 暗黙知をチームに活かすポイント
定期的に情報共有ができる仕組みを作る
暗黙知をチーム内で活かすためには、定期的な情報共有の場の設定や情報を共有するバディ制度を活用することが重要です。
ピア・ラーニングプログラムやシャドウイングのような取り組みを導入し、チームメンバー同士が知識やスキルを共有できる場を定期的に設けます。例えば、毎月の定例ミーティングで一部のメンバーが自分の得意分野についてプレゼンテーションを行い、他のメンバーと知識を交換する時間を設けることが考えられます。
また、特定のプロジェクトチームを作成し、経験が豊かなメンバーと若手メンバーをペアにしてプロジェクトを進めることで、双方にとって実践的な学びの場となります。定期的な情報共有の場を設定することで、チーム全体での知識の均一化とチームメンバー間の連携強化が図られます。
チーム内でお互いの学習を促進するカルチャーを作る
暗黙知を共有するためには、学習を促進するカルチャーを組織全体に浸透させることが重要です。
リーダーや上司が自らの経験を率先して共有し、他のメンバーに学びの機会を提供することで、他のメンバーの模範となることができます。
また、学習や成長に対するポジティブな姿勢を重視し、学ぶことを奨励する環境を作り出します。例えば、週に一度のミーティングを設けて、メンバーがそれぞれの学びの体験や成果を発表し合う場を作ることが考えられます。
さらに、学習教材へやプラットフォームの情報を共有することで、自己啓発をサポートできるでしょう。学習を促進するカルチャーを築くことで、従業員が自らスキルや知識を向上させる意欲が高まり、情報共有が活発化します。
経験や知識のアクセシビリティを向上させる
暗黙知を効果的にチーム内で共有するためには、時間・場所問わず誰でもその情報にアクセスできるように、経験や知識を一つの場所に文書化する仕組みを確立することが重要です。
紙文書以外の形式知化を検討し、デジタル化技術や情報共有ツールの導入を行うことを検討するのも良いかもしれません。これにより、情報のアクセス性が向上し、必要な情報を瞬時に探し出すことが可能となります。
例えば、社内wikiや社内SNSを活用して、プロジェクトの進行状況やノウハウを共有するプラットフォームを提供します。
さらに、メンバーが情報を投稿しやすい環境を整え、アクティブな情報共有が行われるようにします。経験や知識を1か所に文書化することで、情報の迅速な共有が促進され、組織全体の知識が蓄積されます。
コーチングとメンタリングの促進
暗黙知をチームに活かすためには、コーチングとメンタリングの促進も重要です。経験豊富なメンバーやエキスパートが、ジュニアメンバーや新入社員に対して指導やアドバイスを行います。
これにより、暗黙知が経験を通じて伝承され、チーム全体のスキルや知識が向上します。例えば、月に一度のメンタリングセッションを定期的に行い、メンバー同士の交流と学びの機会を提供します。
また、コーチングプログラムを導入して、メンバーが自己成長を促進する仕組みを作り出します。コーチングとメンタリングの促進により、チーム内のメンバー同士の信頼関係が強化され、暗黙知の効果的な共有が促されます。
4. まとめ
いかがでしたでしょうか。 ぜひ暗黙知を属人的な知識にとどめるのではなく、チームのために活用してみましょう。
最後に本記事の内容を以下にまとめました。
- 暗黙知は個人の経験や感覚に基づく非言語的な知識であり、そのためチームでの共有が難しい。
- 暗黙知の共有にはSECIモデルの利用が重要
チーム内で暗黙知の活用するためには、
- 定期的な情報共有の場の設置
- 学習を促進するカルチャーを構築
- 情報のアクセシビリティを向上
- コーチングとメンタリングを促進
などの方法が有効である。
これらのポイントを意識して暗黙知をチームで活用することで、チームの成果につなげましょう。
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