人的資本ROIの計算方法や平均値、企業事例を参考に成功の秘訣に迫る!

役割

人的資本ROIの計算方法や平均値、企業事例を参考に成功の秘訣に迫る!

人的資本経営は、企業が人材投資を効果的に行いその成果を測る重要な手法です。その中でも、人的資本ROI(Return on Investment)は、投資した人材によって生み出された価値を評価する指標として注目されています。

本記事では、人的資本ROIの計算方法や平均値、さらには実際の企業事例を探りながら、人的資本経営の成功の秘訣に迫ります。人的資本経営における効果的な戦略と、それが企業成長にどのように貢献するかを解説します。

 

1. 人的資本経営ROIの概要・計算方法・目安について

人的資本ROIとは

人的資本ROIとは、

人材に対する投資の収益率を示す指標であり、企業が人材に対する投資の効果を評価する際に重要な役割

を果たします。この指標は、企業の経営戦略と人材戦略の連動を実現するための概念であり、ISO30414などの国際規格でも推奨されています。人的資本ROIの算出は、企業が人材投資の優先順位を決定する上で重要であり、経営陣と人事部門が投資の効果を明確に共有することを可能にします。

 

このような人的資本ROIの重要性が高まる中、人的資本経営においてはさらなる進化が求められています。従来は、人事領域における施策の成果を定量化することが難しいとされてきましたが、人的資本ROIの導入により、それらの課題に対処できる可能性が高まっています。企業が人的資本ROIをKGIとして設定し外部へ開示することで、組織全体の成果につながる人材投資の効果を示すことができます。これにより、従業員やサプライヤーを大切にし、同時に企業の売上を伸ばしROIを高める考え方が注目されるようになっています。

 

人的資本ROI算出のための基本計算式

人的資本ROIの計算式の基本は

人的資本ROI = 営業利益 ÷ 人件費 -1 

です。(これはISO30414で定義されている計算式です。)

例えば、ある企業の売上が80億円で、かかった経費が40億円でその内の人件費が30億円だったとしましょう。その場合、営業利益は40億円で、営業利益を人件費で割った値は1.33です。さらに1を引いたのちに100倍にすると33%となります。

 

人的資本ROIの目安は一体いくらなのか

人的資本ROIの目安は企業や業界によって異なりますが、一般的には30%程度が平均とされています。つまり、人的資本に対する投資が、企業にとって収益性の高い物であると言えます。ただし人的資本ROIを公開している企業のサンプル数が少なかったり、企業によって微妙に計算式が違う場合もあるので、適切な目安を見極めるには総合的な分析が必要です。

 

また、今回は経済産業省が発表している[経済産業省企業活動基本調査 2022年企業活動基本調査ー2021年度実績ー]によると製造業、卸売業、小売業の営業利益、給与総額、福利厚生費が算出されています。こちらのデータを元に人事戦略研究所の人事ブログ【人的資本ROIとは】にて計算されているためそちらをご紹介させていただきます。

人的資本ROIの3ヵ年推移

 

2. 人的資本ROIの情報開示をしている企業の事例解説

当章では、各企業が提出しているHumanCapitalReportを参考に人的資本ROIの数値と人的資本ROI向上のための施策をご紹介します。2024年3月時点では有価証券報告書による人的資本開示が行われていないため、ISO30414認証を取得している企業のレポートを参考に紹介します。

また人的資本ROIを高めるためには、営業利益を増やすか人件費を削減することが一般的な手法です。ただし、営業利益を高めるには従業員の生産性やモチベーション向上が必要であり、教育プログラムや働きやすい環境の整備などによる人的資本の適切な活用が必要です。人件費の削減についても、ただ削減するのではなく効率的に運用することで削減することも可能です。今回はそういった施策について、各企業が行っている内容も併せて解説します。

ビル群

 

日立建機株式会社

日立建機グループは、1970年に日立製作所の建設機械部門から発展しました。日立グループは、情報・通信システムから電子装置・システム、建設機械、自動車関連システムなど幅広い事業を展開しています。

人財本部は、

「活力ある人財(Kenkijin)を育み、個の力を最大限に発揮できる「組織」「文化」を築くことで、新たな価値創造、企業価値向上に貢献する」こと

をミッションとしています。これは従業員一人ひとりのハピネスを向上させ、それを事業の成長につなげることが最重要であることを示しています。ハピネスな状態とは、従業員一人ひとりの夢や志、日立建機ができること、お客様のニーズとの一致が一直線に繋がっている状態です。

日立建機グループは、資本関係の変化や米州の独自展開の再開を受けて、よりグローバル化し、ソリューションプロバイダーとしての地位を強化するために、新たな人財像を必要としています。そのために多様な施策を推進しております。

 

DEI関連の推進ではグローバル化をすすめる一環として、グループ全体での男女管理比率の同率化や、現地法人での現地人材の積極的な上位管理職への登用を実施しています。実際に管理職比率は下記の図の通りとなっており、2020年の比率と比べ大幅に向上しています。

女性管理職比率

 

健康経営の推進では心身の健康保持と向上を目指し職場環境を整えるためのプログラムを展開しています。従業員がイキイキと働きやすい職場づくりを目指し、様々な健康プログラムを提供しています。

 

職場改善ワークショップ:ストレスチェックの組織分析結果による職場の問題点を把握し、ストレスを軽減して働きやすい職場にするための取り組みを職場全員で考え実践していく。

セルフケア勉強会:自分のストレス状態を把握し、メンタル不調に陥らないための自己管理である「セルフケア」を習得し、自分に合ったストレス解消法でリラックス&リフレッシュができるようにする。

など

 

生産性向上では、ビジネスユニット制の導入により、顧客志向の事業体制を最適化しています。部門ごとの業績を評価に反映させる「部門業績連動賞与」を導入し、業績に応じた報酬制度も確立されています。

さらに主要ポストの早期抜擢や登用を推進されており、タイムリーな強化人材の確保と組織の効率化を図られております。キャリアデベロップメントの活性化を目指した人財会議を各部門で行い、HRBPが各部門の人財試作実行をサポートしています。

 

これらの取り組みにより人的資本ROIが2020年-47.00(百万円)、2021年14.0(百万円)、2022年52.0(百万円)と向上しています。

 

株式会社フォーバル

株式会社フォーバルは、1980年に設立され、情報通信コンサルティングや次世代経営コンサルティングを行う企業です。同社では、情報通信分野におけるコンサルティングを中心に、海外、環境、人材・教育、企業・事業継承など、多義にわたる分野での活動を展開しており、中小・小規模企業の経営支援を通じて、日本経済の活性化やオフィスインフラの整備に貢献しております。

株式会社フォーバルの人材戦略は、

ビジネスを通じて「幸せの分配」を重視しています。その中でも、最も優先されるステークホルダーは社員であり、社員が幸せでなければ他のステークホルダーにも幸せを提供できない

との考えに基づいています。社員には主体性と計画性を持った人材が求められています。

 

具体的な人材戦略としての取組をいくつか紹介します。

採用戦略においては新卒採用を行うとともに、中途採用も積極的に行い、社員の23%を占める30代の割合を30%へと引き上げる目標を掲げています。

 

DEI関連の推進では、年齢、性別、障がいの有無に関わらず働きがいのある職場づくりを目指し、障がい者雇用や女性管理職比率の向上に取り組んでいます。障がい者雇用率は毎年法定雇用率である2.3%を上回っており、女性管理職比率は2031年までに30%への引き上げを目指し年々向上中です。

 

人材育成の強化では、経営理念の共有と実現のため基盤づくりと、事業人材の育成に重点をおいています。新入社員には1年間の研修期間が設けられ、その他にも新任管理職アセスメントプログラムなどチームとして目指すべき方向性を示し束ねられるよう、リーダーとしての在り方も学ぶ機会を作っています。

さらには、中核事業推進のため「GDXアドバイザー」の育成を急務と位置付け、GX・DXに関する知識習得に取り組んでいます。これらには情報分析力と情報活用力の向上も含んでおり、自らが率先して能力の向上を図ることを目指しています。


人的資本ROI(株式会社フォーバル)

これまでの説明にあるよう、事業戦略達成に向けた専門人材や知見の蓄積のため中途採用や外部コンサルなどの人材投資をしたため、直近のROI自体は19.9%(2020年)、17.7%(2021年)、17.6%(2022年)と減少しています。ただしこれらは、今後の事業戦略での売り上げ拡大に伴い改善見込みが立っている状況です。

 

 

3. 人的資本ROIの重要性と利点について 

優先順位をつける画像

 

効果的な資本活用

人的資本ROIは、企業が限られた資源を最大限に活用し、投資のリターンを最大化するためにも重要な指標です。人的資本ROIの算出により、企業は人材投資の効果的な配分を行い、成果を最大化するための戦略を策定することが可能になります。具体的には、人的資本ROIは、従業員の採用、育成、配置などの人事試作が企業の収益性や競争力の向上にどの程度貢献しているかを客観的に評価します。これにより、効果的な資本活用が実現され、企業の業績向上に繋がるでしょう。また、人的資本ROIを活用することで、従業員の能力や成長に応じた適切な投資を行い、組織全体の生産性を向上させることが可能です。その結果、企業は持続可能な成長を達成し、市場競争において優位性を確保することができます。

 

意思決定の裏付け

人的資本ROIは、意思決定を裏付ける重要な指標としても機能します。経営陣は人的資本ROIを活用することで、人材投資の優先順位を明確にし、戦略的な人材管理を行うためのデータを手に入れることができます。人的資本ROIの算出により、人事施策の効果を客観的に評価し改善点を特定することができるでしょう。これにより経営陣はより的確な意思決定を行う裏付けを得ることができ、企業の業績向上に繋がることでしょう。

数値化

 

 

企業価値の向上

ここまで説明してきた通り、人的資本ROIの向上は企業価値の向上に直結します。人的資本は企業の最も重要な資産の一つであり、その効果的な活用は競争力を強化し、長期的な持続可能な成長を促進します。高い人的資本ROIを持つ企業は、優れた人材を引きつけ、育成し、維持することができます。このような優れた人材は企業のイノベーション力や生産性を向上させ、企業価値の向上に大きく寄与します。

さらに人的資ROIの向上は、投資家や株主に対して企業の価値を明確に伝えることができ、投資家との信頼関係を築く上でもとても重要です。経営陣は人的資本ROIを通じて企業の価値向上を意識し、戦略的な人材投資を行うことが不可欠と言えるでしょう。

 

投資家とのコミュニケーション活性化

人的資本ROIは、投資家や株主とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。企業が人的資本に対する投資のリターンを明確に示すことで、投資家の信頼を得ることができます。投資家は企業が賢明な人的資本管理を行い、その投資が企業価値の向上に効果的であることを知りたがります。そのため、人的資本ROIの計算結果や取り組みに関する情報を適切に開示することは、投資家との信頼関係を築く上で重要です。

また、人的資本ROIを投資家と共有することで、企業の人材戦略や成果についてより深い理解を得ることができます。投資家が企業の人的資本に対する投資の効果を正しく理解することで、企業戦略や将来の見通しに対する投資家からの信頼感が高まります。このように、人的資本ROIは投資家とのコミュニケーションを活性化し、企業の株価を向上させるためのツールとなります。

握手

 

組織内の透明性と信頼性向上

人的資本ROIの算出と開示は、組織内の透明性信頼性を高めます。従業員は自身の貢献が評価されることを知ることで、モチベーションとパフォーマンスを向上させることができます。透明性の向上により、従業員は組織の目標や方針に対する理解が深まり、自身の役割が組織全体の成果にどのように貢献しているのかを明確に把握できます。

さらに、人的資本ROIの開示は、組織のリーダーシップと透明性に対する信頼を高めます。従業員は、経営陣が人的資本の管理と投資に対して真摯に取り組んでいることを知ることで、組織への信頼感を増し、組織のビジョンや目標に共感します。組織内の透明性の向上は、従業員と組織間のコミュニケーションを促進し、チームワークと協力関係の構築に貢献します。

 

また、人的資本ROIの開示は、従業員と組織の関係を強化し、離職率を低下させる効果もあります。従業員は、自身の成果が適切に評価され、報酬やキャリアの機会に反映されることを知ることで、組織に対する忠誠心と満足度を高めるでしょう。組織は、従業員の信頼と忠誠心を獲得することで、人材の定着率を向上させ、組織の持続的な成長と成功に繋がります。

グループワークを行っている写真

 

競争上の優位性の確保

人的資本ROIの高い企業は、優れた人材を惹きつけることができ、競争上の優位性を確保します。優れた人材は企業の成長とイノベーションに貢献し、企業の持続的な成功を支えます。これにより、企業は市場での競争において他社よりも優れた製品やサービスを提供し、顧客の信頼と支持を獲得することができます。

人的資本ROIの高い企業は、従業員のモチベーションと生産性を高めるための環境を準備しているといえます。従業員は自身の能力を活かせる環境で働くことにやりがいを感じ、自己成長や組織の目標達成に向けて積極的に貢献するでしょう。これにより、企業は市場での競争において柔軟性や革新性を発揮し、変化する環境に適応する能力を高めることができます。

さらには、人的資本ROIの高い企業は、組織内でのコラボレーションとチームワークを促進することができます。従業員は相互の信頼と協力関係を築き、共通の目標に向かって効果的に連携します。これにより、企業は市場での競争において迅速かつ効果的に行動し、競合他社に先駆けて新たなチャンスを捉えることができます。

 

4. 人的資本ROIを算出するときに考慮すべきポイント

適切なデータの収集

人的資本ROIを算出するためには、正確なデータが不可欠です。人事部門や財務部門と連携して、人的資本にかかる様々な費用(人事給与、研修費、労働時間など)を包括的に収集し、ROI算出の基盤を整えます。

デジタル化のイメージ画像

 

費用の適切な割り当て

人的資本にかかる費用を正確に算出するためには、割り当てが必要です。各費用項目を明確に定義し、費用を適切に各部門やプロジェクトに割り当てます。費用の漏れや重複を防ぐために、明確な形状基準や費用配分方法を設けます。

 

ROI算出における時間軸の考慮

人的資本ROIは投資の収益を時間軸で考慮するため、その期間にわたる収益を考慮し、適切な期間を設定します。また、投資の収益が時間とともに変動する場合は、時間軸の変化に対応できるように柔軟なアプローチを取ります。

 

適切な比較基準の設定

ROI算出においては、適切な比較基準を設定することが重要です。他の投資やプロジェクトとの比較を行う場合は、一貫性のある基準を使用し、正確な比較を行います。様々な投資やプロジェクトの性質や特性を考慮し、適切な基準を設定します。

勉強

 

期待値と実績の厳密な評価

人的資本ROIを算出する際には、投資の期待値と実績を厳密に評価します。投資の期待収益や目標を明確に設定し、実際の実績との比較を行います。期待値と実績のズレを分析し、投資の効果を客観的に評価します。

 

リスクの考慮

人的資本ROIを算出する際には、リスクを十分に考慮します。投資に伴うリスクや不確実性を適切に評価し、リスク調整後のROIを算出します。リスクを考慮したROI評価を行うことで、より現実的な評価が可能となります。

 

5. まとめ

今回の記事では、「人的資本ROIの計算方法や平均値、企業事例を参考に成功の秘訣に迫る!」というテーマに焦点を当て、人的資本の重要性やROIの計算方法、成功事例について詳しく解説しました。

企業の成果を測る指標として人的資本ROIがどれほど重要か、そして算出するためのポイントが何か、理解を深めていただけたでしょうか。今後は、人的資本の重要性をより一層認識し、戦略的なアプローチを取ることで、企業の成功につながることを願っています。

今後もLEADERSでは人的資本についてやISO30414についての情報を発信していきますので、ぜひチェックしてください。

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