最近注目を集めている「ティール組織」という言葉をご存じでしょうか?
企業によってマネジメントのやり方が異なることはご存知だと思います。 例えば、ある企業は厳格な構造と階層を重視し、ある企業はより柔軟なアプローチをとっているかもしれません。
しかし、ティール組織では日本企業の多くで導入されていた従来のヒエラルキー構造ではなく、セルフマネジメント型のチームを望ましいとおいています。
これはいったいどういう意味で、どうチームのマネジメントに活かせるのでしょうか?
この記事では、ティール組織とは具体的にどういった組織なのか、ティール組織の特徴やメリットやデメリットについてわかりやすく解説していきます。
1. ティール組織とは一体何なのか?
ティール組織とは、元マッキンゼー・アンド・カンパニーの幹部であるフレデリック・ラルーが2014年に出版した『Reinventing Organizations』という書籍で紹介された新たな組織モデルの一つです。
ラルーは書籍の中で、哲学者ケン・ウィルバーの色に基づくこれらのステップの説明から、人間の意識の5つの段階を説明し、組織はこれらの同じ段階に従って進化すると仮説を説明しました。
5つの段階は、それぞれ色に分けられ、以下のようなものがあります。
レッドの組織
権力による権威の確立と強制が特徴。
レッドの組織の例: マフィア、ストリートギャングなど。
アンバー(琥珀色)の組織
価値判断基準は、集団に共通する信念に大きく依存する。規律や役割が重要視され、それを強制するために組織の仕組みが強固に存在し、羞恥心や罪悪感が用いられることがある。
アンバー(琥珀色)の組織の例: 軍隊、カトリック教会。
オレンジの組織
成長と利益を重視する。このモデルが従来のモデルと大きく異なる要素のひとつは、能力主義である。
オレンジ色の組織の例: Goldman Sachs、Coca-Cola。
グリーンの組織
価値主導型の企業バリューや文化によって生産性を高める方法で利益を追求する。すべての人を平等に見なし、扱おうとする。家族の関係に近い。
グリーンの組織の例: IKEA、Starbucks。
ティール組織
これら4つの従来の階層モデルのように経営者の目的をトップダウンで実行する組織ではなく、メンバー各自が組織で共有された目標や目的に向かって、各自が意思決定し実行する自律的な組織。
ティール組織の例:Patagonia、サイボウズ。
ティール組織が発明された背景
そもそもティール(英語でTeal)とは、コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの元アソシエイトパートナーであるフレデリック・ラルーが、階層構造や組織構造を排除し、現在の社会や経済の動向を取り入れた組織のタイプを示すために用いた言葉です。
ラルーは、マッキンゼーで数多くの組織改革プロジェクトに携わっていく中で、魂が抜けたように働く従業員や組織を目にしていました。そこで、ラルーはより進化した組織の構造やマネジメント方法を新しく発明する必要性を感じ、仕事を辞め、生産性と個人の幸福を両立する組織モデルの研究を始めました。
調べていくうちに、ティール組織として成功している組織から、以下の3つの共通点を見出しました。
- 「セルフマネジメント(self-management)」
- 「ホールネス(wholeness)」
- 「進化的目的(evolutionary purpose)」
そこで、ラルーはこれら3つのキーアイデアをもとに、新しい組織モデルを開発することにしました。このコンセプトを実現するためには、最大限の業務効率と従業員満足度の収束点を見つけることが重要です。
これら3つのキーアイデアの詳細について、次章で説明していきます。
ティール組織の特徴
セルフマネジメント(self-management)
ティール組織では、従来の上下関係が明確なマネジメントの仕組みを変えて、セルフマネジメント型のチームと個人の自律した意思決定を推奨しています。
つまり、各メンバーが自分たちで意思決定をし、自分たちで仕事を進めることができる環境を作っています。この仕組みを取り入れることで、各個人の力を信頼し、個々が自律的に仕事に取り組むことができます。
それにより、組織全体でよりフラットな組織構造が作られ、お互いを補い合うことができる効果が期待できます。つまり、従来の上司から指示が来るトップダウンのような関係ではなく、各個人が自己管理・自己決定できる自律的な組織を目指しているということです。
ホールネス(wholeness)
ティール組織におけるホールネスとは、人々がプロフェッショナルとしてだけでなく、人間としても認められ、成長を促進することを指します。この考え方に基づいて、ティール組織は、チームメンバーが最大限に活躍できるように、感情面を考慮しています。
多様性もまた、このコンセプトに密接に関連しています。ティール組織では、異なるバックグラウンドや観点を持つメンバーが、チームの力となっています。多様な経験やスキルを持つメンバーが集まることで、より創造的で革新的なアイデアが生まれることがあります。
また、個々のメンバーが自分らしく表現できる環境が整えられることで、コミットメントや帰属意識が高まり、社員がより積極的に取り組むことができます。これにより、潜在能力が最大限に引き出され、組織全体の成長につながります。
進化的目的(evolutionary purpose)
ラルーによると、ティール組織は、自分たちが置かれた状況や、外部環境の変化に合わせて柔軟に対応することが戦略の基本とされています。具体的には、従来の固定的なビジョンや目標ではなく、複数の状況に迅速かつ柔軟に適応する取り組みを行うことが大切です。
また、利益だけを追求するのではなく、従業員や社会への貢献を重視することで、他社よりも優れた業績を上げることができるという考え方も含んでいます。
2. ティール組織のメリット
従業員エンゲージメントの向上
ティール組織では、個人を信頼し意思決定権を任せることで、個人の能力や専門性を最大限に活かすことができます。 従業員が自らの能力を発揮することで、やりがいや達成感を感じ、モチベーションが高まります。
また、組織が従業員の成長を支援することで、従業員は組織に対して強い愛着を持つようになります。従業員が幸福であることにより、業務に対するモチベーションが高まり、仕事に対してより積極的に取り組むことができます。
生産性の向上
ティール組織によって、組織の柔軟性や適応性が向上することに加え、リーダーシップスタイルに依存した人材の流出が防げることにより人材コストが減り生産性が向上します。
組織の柔軟性や適応性の向上、人材コストが減少する理由として、ティール組織では、従業員が自ら判断して必要に応じて行動を起こすことができるため、組織は柔軟性が高く、変化に対応することが要因に当たります。
また、従来のトップダウンで指示を出す組織モデルだと、上司のマネジメントスタイルやリーダーシップのスタイルによって部下のモチベーションが左右されていましたが、ティール組織では各自の意思決定及び自己実現を重視されるため人材の流出が防げます。
このように、組織が柔軟性と適応性を持ち、人材コストが減少すると、組織は市場変化や技術の変化に迅速に対応し、生産性が向上します。
また、コスト削減により、組織は生産性向上のための投資や従業員のスキルアップに予算を充てることができます。結果として、効率的な作業や高品質な製品・サービスの生産・提供が可能になり、生産性が向上する可能性があります。
イノベーションやクリエイティビティの促進
ラルーは元来、生産性と従業員の幸福度の両立を目指しティール組織という組織モデルを提唱していましたが、結果的にこの2つが実現されることで、相互補完効果が生まれます。
特に、幸福な従業員は、より創造的な問題解決方法を提供することができます。彼らは、自分のアイデアや仕事にやりがいを感じているため、よりチームや組織に貢献したいというモチベーションを感じる傾向があります。
例えば、グーグルは幸福な従業員を持つことで知られています。従業員がストレスを感じないよう、適切な環境や福利厚生が提供されています。また、グーグルは自社のプロジェクトに熱心な従業員に自由な時間を与え、自分のアイデアを追求することを奨励しています。
このような取り組みにより、グーグルは創造的で、生産性の高い従業員を育てることができました。
このように、生産性と幸福度の両方を備えた組織は、従業員がより貢献しやすく、創造的な問題解決方法を提供することができるため、イノベーションとクリエイティビティを促進することができます。
3. ティール組織のデメリット
組織全体の統一性に欠ける
ティール組織には、組織の方向性や目標を明確に示すことが難しいというデメリットがあります。これは、ティール組織においては、従業員自身が自己組織化されているため、経営者やマネージャーが指示や命令をすることが少なくなります。そのため、組織全体で方針に統一性が欠けることがあるとされています。
例えば、あるティール組織において、社員たちは自分たちで意思決定を行い、自分たちの仕事に対して責任を持つようになっています。しかし、このような自己組織化された組織では、社員たちが個人的な目標や興味に従って活動することがあり、組織全体で統一された目標に向かって進むことが難しい場合があります。
また、ティール組織では、上下の階層がなく、決定権が分散しているため、経営者やマネージャーが組織の方向性や目標を明確に示すことが困難になることがあります。 その結果、組織全体で方針に統一性が欠け、組織の目的を達成するための効率的な取り組みが遅れることがあります。
対策として、ビジョンと目標の共有に加え、チーム内のコミュニケーションを改善し意見の共有や問題解決を行うことが必要です。
意思決定に時間がかかる
従業員が自己成長に注力するため、業務の遅れや品質低下が起こることがあります。
特にティール組織では、従業員が自己決定的に働くため、チーム内の意見の相違が生じることがあります。
例えば、あるプロジェクトにおいて、チームメンバーが意見を出し合った結果、複数のアイデアが浮上した際に、そのアイデアの中でどれが最善かを決めるには、時間がかかることがあります。
これを防ぐためには、意思決定の手順や従業員が自己決定的に働くために必要な情報やルールを提供し、 その工程の透明化に注力することで組織全体での決定を効率的に行うことができます。
組織への影響力が個人の能力に依存する
ティール組織では、個人のスキルや自己啓発が求められます。しかし、全員が同じスキルや能力を持っているわけではないため、一部の人材が他の人材よりも優秀である場合には、組織内での役割や評価が大きく異なる可能性があるということです。
例えば、自己啓発に取り組んでいる人は自己成長を促し、組織に貢献することができますが、そうでない人は組織にとって負担となる可能性があります。
また、自己管理に慣れていない人にとっては、適切な業務の優先順位付けや時間管理が難しい場合があります。そのため、組織全体でのトレーニングや支援が必要となります。
4. ティール組織の成功事例と失敗事例
ティール組織の成功事例
パタゴニア(Patagonia)
パタゴニアはスキー、クライミング、スノーボードなどのアウトドアウェア製品メーカーとして有名な企業です。
「地球を救うためにビジネスを営む」という企業理念のもと従業員を信頼し「社員をサーフィンに行かせよう!」という経営哲学を掲げていることでも知られています。
1994年夏、同社は企業理念に基づき、従来栽培されていたコットンをすべてオーガニックコットンに切り替え始めました。
原料コストが3倍になるのにもかかわらず、この取り組みは同社の売り上げに貢献し、他の企業も同様の取り組みを行うようになりました。
Morning Star
Morning Starは年間売上高8億ドル超えの米国のトマト加工会社です。
同社のは以下の2つの基本理念のもと設立されました。
- 各々が自らの意思で周りと協力して働くことができる
- 責務を果たし続けることができる
同社はこの基本理念に基づき、マネージャーや部長などの管理職が存在しない組織形態をとっています。
従業員は企業の理念に沿って自分の行動指針を含む行動計画書を企業に提出し、合意のもと全従業員に公開します。合意が作成された後は、従業員は従業員には全ての決済権が与えられ、従業員全員が自律的な意思決定を行います。
Morning Starにとって重要なのは信頼であり、それぞれの価値貢献に基づいて自分の居場所を見つけることが望まれている組織です。
サイボウズ
サイボウズはチームワークを重視し、100人が100通りの働き方ができる仕組みを設計しました。
「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスのもと、サイボウズは自律した組織を目指し、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立と議論」というカルチャーを掲げ、様々な従業員の価値観や考えを尊重しています。
サイボウズがマネジメントを見直したきっかけは創業初期の際、初代社長の座を現代表の青野慶久氏が引き継ぐ際、マネジメントに苦労し離職率が急増したためです。
青野氏はそれ以降、買収した企業のいくつかを手放し従業員のマネジメントを見直しました。
離職率が28%と過去最高を記録した2005年以降、組織や評価制度を見直し、ワークライフバランスに配慮した自由な働き方制度や、会社独自の社内コミュニケーション施策を実施後、3%前後に減少しました。
非ティール組織の例
非ティール組織の例として、1章で紹介したオレンジの組織の例の一つであるGoldman Sachsとグリーンの組織の一つであるStarbucksを紹介します。
Goldman Sachs
Goldman Sacksは経営理念の一つに、「ビジネス遂行上最優先すべきは、顧客の利益である。」とし顧客との信頼を重要視しています。
他にも、「わが社のビジネスは熾烈な競争下にあり、我々は顧客層の拡大に積極的に取り組んでいかねばならない。」「わが社の社員には、多くの企業と比べてより早い昇進の機会が与えられている。」という経営理念から能力主義の組織であり、社員も上昇志向が高く、各個人が自身の成長を望んでいる傾向にあることが分かります。
このように、Goldman Sachsをはじめとした外資系の金融企業には、オレンジの組織が多くみられます。
Starbucks
Starbucksは企業のミッションとして「人々の心を豊かで活力あるものにするためにー一人のお客様、一杯のコーヒー、そして一つのコミュニティから」とおき、「人」「コミュニティ」「地球」の3つを大切にした活動を大切にしています。
誠実さ、向上心、職場の心理的安全性を重要視しており、「人間らしさ」を大切にしているグリーンの組織です。
5. まとめ
本記事ではティール組織とは何か、背景とメリットデメリットについて解説しました。
最後に本記事の内容を以下にまとめました。
ティール組織とは、フレデリック・ラルーが2014年に発表した新たな組織モデルで、メンバー各自が組織で共有された目標や目的に向かって、各自が意思決定し実行する自律的な組織のことをいいます。
ティール組織のメリット
- 従業員エンゲージメントの向上
- 生産性の向上
- イノベーションやクリエイティビティの促進
ティール組織のデメリット
- 組織全体の統一性に欠ける
- 意思決定に時間がかかる
- 組織への影響力が個人の能力に依存する
ティール組織を意識した組織作りを行うことで、組織全体を自己組織化し、目的に向けて自己決定的に活動することで、生産性と従業員の幸福度の両立を実現できます。
ティール組織は、自律的な従業員活動を促進する組織モデルであり、メリットやデメリットがあることを理解した上で導入することが重要です。
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