皆さんは、組織内で活躍していた人材が昇進後に期待に応えられなくなるといった状況を見たことはありますか?
これは「ピーターの法則」として知られる現象で、さまざまな組織で起こりうる普遍的な出来事です。
ピーターの法則とは、人が能力を発揮すればするほど昇進の対象から外れるという経営学の理論です。
この現象が放置されると、関係者のエンゲージメント低下や、最悪の場合は企業の競争力低下や人材の流出といった問題を引き起こす可能性があります。
本記事では、ピーターの法則の概要、その法則が起こる原因と対策まで詳しく解説していきます。ピーターの法則に関連するいくつかの法則についても触れていきます。
1. ピーターの法則とは
ピーターの法則とは、
能力主義の社会において、個々の人が自身の能力を示し、昇進を重ねる中で、最終的に能力を超えたポジションに就くと、能力が衰え無能になる現象
を指します。
具体的には、個人が有能さを示すと昇進し、そのプロセスで適切なポジションに到達するまで昇進が続きます。
しかしその過程で、本来の能力を超えたポジションに就くと、その人の能力が及ばなくなります。
つまり、結果として組織内のポストは、本来の職責を果たせない無能な人が占めることになります。
この法則は、能力主義の階層社会での出世に伴う、人々の能力の衰退を浮き彫りにしたものです。
このようなピーターの法則に関する詳しい概要についてみていきましょう。
ピーターの法則の概要
ピーターの法則は、アメリカの教育学者、ローレンス・J・ピーター氏とレイモンド・ハル氏が共著した『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』にて提唱された階層社会の理論です。
前章の通り、この理論では、有能な人が昇進し続けると無能な地位に至り、無能な人は昇進せずに同じレベルに留まるため、組織全体が無能な状態になると論じられています。
ピーター博士は、組織が機能するのは限界に達していない部下ではなく、限界に達した管理職よりも創造的無能を発揮している人材によっていると指摘しています。
創造的無能とは
ピーターの法則に関連して注目されるのが、「創造的無能」という概念です。
これは、自身の能力をあえて限界まで出さず、無能であるかのように振る舞うことを指します。なぜこのようなアプローチが推奨されるのか、その理由を大きく2つに分けることができます。
現在の職位で能力を最大限に発揮するため
出世により職位が上がると、業務内容が変わり、自身の能力を十分に発揮できなくなることがあります。
そのような場合、昇進を避けて現在のポジションに留まり、最大限の能力を発揮することで、組織や個人の成長により大きな貢献ができるとされています。
出世してもマッチしない管理職スキルへの対応
能力を限界まで発揮し昇進したとしても、管理職に必要なスキルが、それまでの得意分野とは異なる場合があります。
現場での優れた能力が、マネジメントに直結するとは限りません。
このため、本人のスキルと求められるスキルが合致しない場合、無能な管理職が生まれることを避けるため、創造的無能が推奨されるのです。
ピーター博士によれば、現在の職位で最大限の貢献をすることが組織にとって価値があるとされており、昇進を避ける選択は組織や業務にプラスの影響を与えるとの見方もあります。
2. ピーターの法則が起こる原因と背景
ピーターの法則は、人が能力を発揮すればするほど昇進の対象から外れるという経営学の理論です。
なぜピーターの法則が起こってしまうのか、ピーターの法則が起こってしまう原因と背景について解説していきます。
昇進制度の欠陥
昇進や昇格における制度が不完全であることが、ピーターの法則の発生につながります。
特に要因となるのは、昇進や昇格の基準が整備されているにも関わらず、降格の基準が不透明な状態であることです。
多くの企業では、昇進についての指針や目安は存在しても、降格に関する具体的な要件が不十分なケースが少なくありません。
昇進後の能力や適性が不足しているにもかかわらず、昇進した人材は、その地位に留まり続ける傾向があります。
この状況では、昇進した後に必要な職務遂行能力が欠如しているとき、降格が発生しにくくなります。
その結果、無能な人材が役職に留まり、組織内で無能化が進んでしまうのです。
特に、降格に対する厳格なルールが欠如している状況では、昇進した人材が能力不足であってもその地位を維持することが許容され、結果として無能な管理職が生まれる一因となります。
このような不完全な昇進制度が、ピーターの法則の発生を促進することになります。
無能化した管理職による人事評価
ピーターの法則が起こる原因には、無能な管理職による人事評価があります。
能力が限界に達した人材が管理職になり、適切な評価が行われない場合、成果を数値化できない領域やハロー効果により評価がゆがめられることがあります。
結果として、有能な社員よりも無能な者が評価を受け、無能な社員が増える可能性が高まり、ピーターの法則が生じやすくなります。
さらに、無能な管理職は部下を適切に評価できず、適正な昇進が行われず、組織全体に無能な人材が増える悪循環を招きかねません。
その結果、組織の業務に影響を及ぼし、部下のモチベーションや仕事への姿勢にも悪影響を及ぼす可能性があります。
役職に求める要件定義が明確ではない
役職ごとの要件が明確でないこともピーターの法則を起こす原因の1つです。
つまり、その役職に昇進を決定する判断基準が明確に定められていないということです。
評価や昇進の基準が不透明だと、評価者が能力を正しく評価できず、適格者が役職に就けない可能性が高まります。
基準の不明確さが昇進を決定する際の主観的な判断を生み、実際の能力との間に乖離を生じさせます。
また、部長や課長などの要件が明確でなければ、不適格な人材が昇進する可能性が高まります。
役職に求められる要件が明確でない場合は、昇進基準の再検討が必要不可欠です。
3. ピーターの法則に関連する法則
ピーターの法則が起こる原因は理解できましたでしょうか。
ピーターの法則には関連する法則がいくつかあります。ここではその法則を3つご紹介します。
ディルバードの法則
ディルバートの法則はアメリカの漫画家、スコット・アダムズが描く「ディルバート」というキャラクターに因んで名付けられました。
この法則は、
「意図的に無能な人材を昇進させることで、組織・現場の損害を最小限にする」という考え方
に基づいています。
ピーターの法則が有能な人材が昇進して無能になることを指すのに対し、ディルバートの法則は無能な人材を最初から昇進させ、組織の損害を抑えることを主張しています。
組織の運営を担うのは下層部の人材であり、上層部は生産性に直接関与しないという前提に立っています。
例えば、効率的な生産や顧客満足度、製品やサービスの品質管理などと、組織の生産性を保っているのは下層部の人材であるからです。
つまり、組織運営を担う下層部の生産性を維持しつつ、上層部が無能でも組織の機能性が損なわれないといえます。
組織においては、ピーターの法則と同時にディルバートの法則が並存することも少なくありません。
ハロー効果
ハロー効果は1920年に心理学者のエドワード・ソーンダイクによって提唱されました。
この効果は、
ある特定の特徴に惹かれて他の特徴の評価が影響を受ける認知バイアス
です。
目立つ特徴が肯定的であれば、その対象の全体的な評価も肯定的になる傾向があります。
例えば、有名大学を卒業したことが知られる場合、その人の能力や知識が高いという前提で評価されることがあります。
これは、ピーターの法則の影響を受けやすい組織で顕著に見られるバイアスの一つです。
ハロー効果は、「後光」や「円光」とも言われ、その対象を輝かせる光により、実際よりも価値を過大に感じさせる心理効果を指します。
このような効果は、人の評価にゆがみを生じさせ、行動経済学や社会心理学における「認知バイアス」の一つとして研究されています。
パーキンソンの法則
パーキンソンの法則は、イギリスの政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンによって提唱されました。
この法則は、人々は利用可能な資源を最大限に使おうとする性質を説明した法則です。
以下の2つの法則から成り立ちます。
第一法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する
仕事の量は与えられた時間内に完了するまで増え続けると指摘しています。この法則は役人の習性により導かれ、人数の増加が一人あたりの仕事量の減少につながらないことを示しています。
第二法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する
支出は収入と同程度にまで膨らむとされていて、収入の増加が支出の増大に繋がり、貯蓄がなかなかできない状況を示しています。
パーキンソンの法則は具体的な事例を通じて理解しやすく、例えば会議の時間設定や収入増に伴う支出増など、日常生活での状況にも当てはまります。
この法則は、効果的な時間管理や資金運用の重要性を示し、無駄な負担を減らすための手助けとなります。
ピーターの法則とも関連し、無能化した人材が組織の肥大化に影響を与える可能性も考慮されます。
4. ピーターの法則が及ぼす組織への影響
ピーターの法則が及ぼす組織への影響は以下のようなものがあります。
ピーターの法則が成立すると、以前は優秀だった人材が能力を発揮できなくなることがあります。
これは組織にとって重大な懸念であり、様々なリスクをもたらす可能性があります。
人事評価の機能不全
ピーターの法則が及ぼす組織への影響の1つに、人事評価の機能不全が挙げられます。
この法則のもとで、組織内での昇進や人事決定が無能な人材によって行われるケースが増えると、重要なポジションに不適切な人物が就く可能性が高まります。
ピーターの法則により上層部が無能な人材で溢れかえると、正当な評価がされず、有能な人材が評価される機会を失うことがあります。
その結果、組織内でのモチベーションや能力向上に繋がる評価制度が機能不全に陥ることや組織内での評価の基準が低下してしまい、組織の長期的な成長を妨げる潜在的なリスクとなる可能性があるでしょう。
ピーターの法則の影響を受けないようにするための人事評価の方法の1つとして「360度評価」があります。
360度評価とは、評価対象者のことをよく知る周囲の人たち全員がフィードバックを行う評価方法のことをいいます。
上司、直属の部下、同僚(評価対象者の周囲360度にいる人々)が、評価対象者の長所と短所などについてフィードバックをすることで多面的に評価することが可能です。
360度評価を実施する方法や失敗事例について詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
生産性の低下
ピーターの法則がもたらす組織へのデメリットの一つは、生産性の低下です。
例えば、営業成績が優れている人が管理職に昇進する際、その人物の営業成績を高く評価し、部下を指導する力も同様に優れているとの前提で昇進が行われることがあります。
しかし、営業に強い人材が管理職になったからと言って、部下を率いる力が自動的に備わるわけではありません。
顧客ニーズを理解して売り上げを上げる能力と、チームを統率し成果を上げる能力は異なるものです。
こうした誤った昇進により、管理職が無能化し、チーム全体の業績に影響を与えることがあります。結果として、生産性の低下が生じる可能性があります。
また、高い営業成績を上げた人材が管理職になった場合、自身の業務から離れ、新たな責任に追われることもあります。
そのため、以前よりも業績が低下することも考えられます。
このような事例がピーターの法則に基づく昇進で生じる生産性の低下につながる可能性があるのです。
優秀な人材の流出
ピーターの法則が組織にもたらすデメリットの一つに、優秀な人材の流出があります。
ピーター氏は有能な人材が昇進を避けるために実力をセーブし「創造的無能」になることを提唱しています。
しかし、このアプローチは有能な人材が実力を抑えることを意味し、本来の力を発揮できない状況を生むため、ストレスとなります。
評価されないことで仕事へのモチベーションも低下し、結果的に組織から離れる人材が増えてしまいます。
優秀な人材が評価されず流出することで、組織の成長や競争力に大きな損失をもたらす可能性があります。
また、人材の流出は昇進の機会が限られていることによるものかもしれません。
成長過程にある優秀な人材が本来の能力を発揮できるポジションが限られていると、彼らは自己実現や成長を求めて組織を離れる可能性が高くなります。
このようなポストの限られた状況が、組織内での有能な人材の流出につながる可能性が考えられます。
これにより、組織は有望な人材を失うことで新たなアイデアや成果を生み出す機会を失い、競争力を低下させるリスクが生じるでしょう。
5. ピーターの法則を回避するための対策
これまでピーターの法則が起こる原因や影響について解説してきました。
そのようなピーターの法則を起こさないようにするための対策について解説していきます。
職務内容と昇給の関連性を改善する
ピーターの法則を回避するための一つの対策として、職務内容と昇給の関連性を改善することが挙げられます。
ピーターの法則の原因に合った通り、組織において、役職に昇進した際の具体的な職務内容やその役割について、明確な要件定義がされていない状況であると、評価者の判断が絡んでしまい、実力に合わない人が昇進するリスクが高まります。
この問題に対処するためには、昇進や昇格に伴う新しい職務内容や要件を事前に明確に定めることが重要です。
今のポストでの能力を見極めるだけでなく、昇進後に求められるスキルや経験についても明確に提示し、その基準を満たしているかどうかを客観的に評価することが必要です。
さらに、必要であれば降格の基準も設けることで、役職者にふさわしい人材を選別し、組織全体の能力を維持することができます。
明確な基準を設けることで、ピーターの法則による無能な人材の昇進を防ぐための手段として有効です。
階層別の研修の充実化
階層ごとに的確な研修を提供することが、ピーターの法則を回避し有能な人材を育成する上での鍵となります。
新たな役職と現在の役職の求められるスキルは異なるため、昇格させた人材を無能にさせないためにも階層別の研修を充実させましょう。
特に、新任管理者にはリーダーシップやコミュニケーションの向上を、新任幹部には組織戦略の理解や戦略的意思決定を重点的に学んでもらうことが必要です。
この研修は、自己努力だけでは埋められないスキルや洞察を提供するものであり、各ポジションで求められるスキルを明確に示すことで、従業員が成長し続ける機会を提供します。
また、昇進後の責任や業務への適切な対応方法、問題解決の手法に焦点を当てたメンターシップ制度も、新たな役職に就いた人材の成長をサポートする重要な手段となります。
従業員が研修を受け、成長し、新たなポジションで必要なスキルを習得することで、組織全体の生産性向上に繋がり、ピーターの法則による無能化のリスクを軽減することができます。
降格基準の明確化と多様なキャリアの用意
ピーターの法則を回避し、組織内の無能化を防ぐためには、ポストにおける降格基準を明確に定めることが肝要です。
各ポジションの求められる役割やスキルを透明化し、適合しない場合や将来的にその基準を満たせない場合は、他の有能な人材にその機会を提供することが必要です。
ただし、降格人事は実施が難しい場合があります。このため、降格基準の明確化は組織メンバーの成長意識を育む重要なステップとなります。
明確な基準を示すことで、個々の成果を客観的に評価し、成長に向けた目標を設定する助けとなります。
同時に、降格に対する不安や反発を軽減するために、再昇格の機会を考慮することも重要です。
また、降格すること=管理職になることという概念から離れ、専門的な技術職になるなどの多様なキャリアを考えることも必要です。
失敗や低調な局面から学び、発展するチャンスを提供することが、ピーターの法則による無能化を回避し、多様なキャリアを促進する方法となります。
6. まとめ
いかがでしたか。
ピーターの法則を理解することは、組織における成長と人材管理において重要です。
この法則は、人々が昇進するにつれて能力の限界に達し、結果として組織全体が無能力化する現象を示します。
しかし、この法則に対処するためには、昇進準備や能力開発の機会を提供することが不可欠です。
組織全体での学びと成長を促進する仕組みが、ピーターの法則に立ち向かい、組織のエンゲージメントを高める一助となります。
本記事のまとめを以下に行います。
ピーターの法則とは、
能力主義の社会において、個々の人が自身の能力を示し、昇進を重ねる中で、最終的に能力を超えたポジションに就くと、能力が衰え無能になる現象
を指します。
ピーターの法則が起こる原因と背景には以下の3つがあります。
- 昇進制度の欠陥
- 無能化した管理職による人事評価
- 役職に求める要件定義が明確ではない
ピーターの法則を回避するための対策は以下の3つがあります。
- 職務内容と昇給の関連性を改善する
- 階層別の研修の充実化
- 降格基準の明確化と多様なキャリアの用意
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