人材戦略や人的資本について調べていると、必ずと言っても良いほど目にする3P5F。
本サイトでも概要について解説した記事がありますが、概要のみでは実際の取り組みがイメージしにくいと思います。
本記事では、3P5Fの内容について詳細を解説します。3P5Fは全部で8項目あるので、今回は3Pを紹介していきます。
また、それぞれの項目について実際に取り組まれている事例の紹介をします。多種多様な業界の様々な実践事例を紹介しますので、経営戦略と人事戦略のヒントを得ることができるでしょう。
1. 3P5Fとは
3P5Fの定義
初めに、3P5Fとはどのようなものかご存じでしょうか。3Pは3つの視点 (Perspectives)、5Fは5つの共通要点 (Common Factors)が定義されています。
この3P5Fは、2020年9月の「持続可能な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」という報告書で提唱されました。通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれる、経営環境の変化に伴う人材戦略について述べられたレポートです。人事版伊藤レポートに関しましては、以下の記事で詳しく解説しています。
3P5Fの3Pとは
3つの視点 (Perspectives)は「経営戦略と人材戦略の連動」、「As is – To beギャップの定量把握」、「企業文化の定着」が定義されています。以下の図のように人材戦略はビジネスモデルや経営戦略と連動させて考える際に必要な視点です。
今回は3Pの3つの視点 (Perspectives)について、事例とともに紹介していきます。
5Fの5つの共通要点 (Common Factors)については、後編で詳しく紹介しますので次回の記事もぜひご覧ください。また、今回の解説で頻出するCHROに関しましては、以下の記事で詳しく解説しています。
2. 3Pの各項目解説
視点1:経営戦略と人材戦略の連動
近年、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)による労働環境の変化や、急速なIT化(VUCA時代の到来)など、経営環境が急速に変化しています。
このような変化の激しい時代、持続的に企業価値を向上させるには経営戦略と表裏一体で実現を支える人事戦略を策定し実行する必要があります。具体的には、経営陣が人材戦略の検討を経営戦略とのつながりを意識して、重要な人材面の課題についてアクションやKPIを考える必要があります。
(既存記事参考:【要約】人材版伊藤レポート2.0|最新2.0だけでなく他レポートも紹介!)
(1)CHROの設置
経営戦略と人材戦略の連携を強化するためには、責任者を明確に定めることが重要です。
経営企画室の担当者と人事部の担当者の二者で進めるなどは得策ではありません。CHROは本社内で戦略設計などの経験だけでなく、事業サイドでの実務で結果を出した方などが担うのが良いでしょう。また経営戦略と人材戦略の策定と実行は本来CEOの責務ではありますが、CHROが主導することが適切です。ただしあくまで主導であり、責任を一任するのは良くないと言えます。
上記のようにCHROの必要性を理解した上で、CHROの存在をより効果的にするためには工夫が求められます。それはCHROの役割設計です。従来の人事部長や人事に関する役員が担ってきた役割や責務とどう差別化するのか社内で議論することが重要と言えるでしょう。
この役割については各企業が設計すべきではありますが、一般的には以下のものが含まれます。
(2)全社的経営課題の抽出
CEOとCHROは、総合的なフレームワークである「価値協創ガイダンス」などを利用しながら、経営戦略の実現に影響を与える人材面の問題を整理する必要があります。特に企業固有の重要な課題とそれに対するアプローチを示し、改善の進捗状況を取締役会などで共有しなければなりません。
「価値協創ガイダンス」についてはこちらも併せてご覧ください。
この取り組みを進める上では、CHROから経営陣に対して積極的に問い、課題の優先順位付けと解決に必要な時間軸の明確化が必要です。
(3)KPIの設定、背景・理由の説明
人材戦略を立案し、進行状況に応じて速やかに修正を行うためには、目指すべき組織のあり方や必要な人材を具体的に考え、KPIを設定することが欠かせません。KPIを設定するだけでなく、その背景や理由を明確に説明することで、社員に対して戦略の説得力を高め、行動の変化を促すことが期待できるでしょう。
(4)人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
自社の各事業に即した迅速な人事運営が要求される一方で、経営環境の変化に対応するため、全社的な人材戦略の策定と実行がますます重要になっています。人事と事業の両部門が企業価値と事業価値の向上をリードし、経営戦略と人材戦略の一体化を推進するべきでしょう。
その中で、各事業で機動的な人事制度の運用を行うには、人事の専門知識を持つ人による支援が必要です。しかし多くの場合は、人事部門にそのような支援を行うだけの体力がないため、人事部門の支援機能の強化が今後の企業価値向上の鍵となるでしょう。
(5)サクセッションプランの具体的プログラム化
CEO・CHROは、優れた能力を持つ20・30代の社員を早期に見極め、経営者やリーダーとしての重要な役割を果たす機会を提供するべく、取締役会などで共有すべきです。
(6)指名委員会委員長への社外取締役の登用
CEO・CHROは、将来の企業経営を担う人材が適切に選ばれるかどうかを、社外取締役が適切に評価できるように、その責務を担える社外取締役の選出について議論する必要があります。
昨今の日本の企業統治改革の進展により、次期経営陣の選出や育成における指名委員会の責務が日々重くなっています。その指名委員会の委員長を社外の人が務めることで、内部の枠組みに捕らわれず、次期経営陣の選出に公平な意思を示すことができるでしょう。
(7)役員報酬への人材に関するKPIの反映
CEO・CHROは、人的資本経営の推進こそが最も重要な仕事だと理解し、役員報酬の一部に、人的資本に関する目標や成果と紐付いた仕組みを導入することを検討し、連携するべきでしょう。
ソニーグループ株式会社の事例:各事業のCHROが人事運営をリード
事業間の特性の違いが大きいため、各社のCHROがグループ会社執行役専務、人事総務担当とすり合わせしながら人事施策を推進しています。また、人事責任を各社CHROに委任したうえで、グループ経営の「求心力」としてパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を定義し、社員のエンゲージメントの向上を経営陣報酬として連動させています。「地域」「多様性」「個」という多様性を重視しつつ、求心力のためのパーパスを定義することで、規模の大きなグループ会社でも一体となった人事戦略を実行されています。
視点2:As is – To beギャップの定量把握
As is – To beとは、現在の(As is)と目指すべき姿(To be)を現した用語です。ここでは、経営戦略実現の障害となる人材面の課題を特定し、課題ごとのKPIを用いて目指すべき姿(To be) 、現在の姿(As is)とのギャップの把握を定量的に行うことを指します。課題ごとのKPIを用いてAs is - To beギャップを把握することは、人材戦略が経営戦略と連動しているかを判断し、見直しを行うために重要です。
(1)人事情報基盤の整備
各KPIに関するAs is - To beの把握を行います。そのために、データを迅速に収集するための情報基盤の整理を行う必要があります。この際に、KPIに直接関係のある情報整備から優先して行うと良いでしょう。
様々な分析を可能にしようと、包括的な人事情報基盤の整備に着手すると時間がかかってばかりでうまくいかない可能性が高いです。最初のうちはスモールスタートで始め、段階的に拡大していくことが良いと述べられています。
(2)動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
短期間では解消できないギャップもあるため、KPI達成までの期間を設定して継続して取り組む必要があります。具体的で定量的な目標を設定し、経営環境の変化に合わせてKPI、目標、達成期間の妥当性を検証して見直す必要があります。
(3)定量把握する項目の一覧化
重要なものは目標と進捗状況を常に一覧化しておきます。具体的には、経営戦略の実現を左右する重要なKPIを絞り、取締役会や経営会議で定期的に報告するなどです。
荏原製作所の事例:中長期目標と各事業の達成度
各事業の目標達成状況に関して、「風水力事業」「環境プラント事業」「精密・電子事業」などに分類し、それぞれの数値目標・達成実績、成果をまとめています。また、E-Plan2022の成果をベースに、E-Plan2025やE-Vision2030に向けての方向性を定量的に示しています。中長期の企業価値創造に関しても、長期ビジョン E-Vision2030で上げた5つのマテリアリティをもとに、 E-Plan2025における各部門の目標とKPIを設定しております。 As is – To beギャップの定量把握だけでなく、あるべき姿のためにどのような取り組みを行っていくのか、中長期に分け、担当やKPIを明確にし整理されています。
視点3:企業文化の定着
近年、過度に利益を優先する経済活動による、環境破壊や労働者の搾取、企業の不正などが問題視されています。これにより、持続可能な社会を作るためのESG投資が注目されています。企業は持続的な企業価値を生み出すために、人材戦略を策定する段階から目指す企業文化を見据える必要があります。
(1)企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義
CEO・CHROは、自社がもたらすべき社会・環境へのインパクトのために、企業理念や企業の存在意義を再考し、事業成功につながる社員の行動や姿勢を企業文化として浸透させることで、競争力の向上を行います。
また、近年のサステナビリティやESGに関する関心の高まりを受け、社会や環境へどう貢献していくのか、企業理念や存在意義に反映してステークホルダーに説明する必要があります。
(2)社員の具体的な行動の姿勢への紐付け
企業理念や企業の存在意義など、企業として重視する行動や姿勢が社員に浸透するよう、人事制度の仕組みを検討します。
新たな人材戦略が企業文化へと定着し、社員の行動や姿勢として体現されている状態にならなければ、絵に描いた餅となってしまいます。CEO・CHRO自らが当事者意識を持って取り組み、社員の言動や業務への姿勢が企業文化と一致しているか、サーベイやヒアリングなどを定点的に確認すると良いでしょう。
(3)CEO・CHROと社員の対話の場を設定
経営陣や社員が企業文化をどのように体現し定着させていくか、CEO・CHROが社員との対話を通して維持すべき文化や見直すべき文化に対して考える機会を作る必要があります。社員が直接CEO・CHROに自ら質問し対話を行うことで、新たな人材戦略の企業文化への定着について主体的に考えることが期待されます。
株式会社サイバーエージェントの事例: 立場を超えた経営課題討議「あした会議」
「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する。」というパーパスを持つ同社は、新市場を開拓し事業を生み題し続けるために、様々な独自の取り組みを行っています。2006年から開始した「あした会議」では、年に1~2度チームを組んで合宿形式で開催されています。ゲーム事業などの事業柱となるビジネスや、社員のコンディション把握、専門部署の新設、マネジメントシステムなど、多岐にわたる仕組みが数多く生まれるようです。これまで「あした会議」をきっかけに32社の子会社が設立され、新規事業から累計売上高約3,259億円、営業利益約455億円を創出しているようです。 企業文化の定着、エンゲージメントだけでなく、実際の売り上げや新たな事業につながっていることから経営戦略と人材戦略が連動している事例と言えるでしょう。
5Fの5つの共通要点 (Common Factors)については、後編で詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。
3. まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。
3P5Fの3つの視点について、具体的な取り組みがイメージできましたでしょうか。
詳細や事例とともに、3つの視点を細かく解説したため、人的資本経営への取り組みについてどこから始めるべきか、順序立てることが難しいかもしれません。まずは、視点1の経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み、または企業に合わせた項目の設定から進めてみると良いかもしれません。
次回の後編では、5F (5つの共通要点 (Common Factors) )について紹介していきます。LEADERSでは、他にも人的資本や人材戦略に欠かせないワードについて解説しております。関連記事を記載していますので、ぜひチェックしてみてください。
弊社のチームマネジメントツールについて
- チームメンバーの心身状態が見えていますか?
- 目標達成に向けたメンバーマネジメントができていますか?
こんな課題を解決したく弊社はチームマネジメントツール【StarTeam】を開発しました。
チームワークを見える化し、チームリーダーのマネジメント課題解決をサポートします!
Starteamは
- チームやメンバーの状態の可視化
- 状態に応じた改善アクションの提供
- 改善サイクルの自走化
ができるサービスとなっております。
目標達成に向けたメンバーマネジメントにより
- 離職率が約30%→約15%への改善
- 残業時間が約1/3への改善
につながった実績が出ている企業様もございます。
ぜひ以下のバナーをクリックし詳細をご覧ください。