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【後編】3P5Fモデルの取り組み事例紹介 ‐人材版伊藤レポート‐

2024年6月14日

人材戦略や人的資本について調べていると、必ずと言っても良いほど目にする人材版伊藤レポート
本サイトでも概要について解説した記事がありますが、概要のみでは実際の取り組みがイメージしにくいと思います。

本記事では、人材版伊藤レポートの3P5Fについて詳細を解説します。3P5Fは全部で8項目あるので、今回は5Fを紹介していきます。

3Pの3つの視点 (Perspectives)については、前編で詳しく紹介していますので前回の記事もぜひご覧ください。

 

また、それぞれの項目について実際に取り組まれている事例の紹介をします多種多様な業界の様々な実践事例を紹介しますので、経営戦略と人事戦略のヒントを得ることができるでしょう。 

 

1. 3P5Fとは

3P5Fの定義

初めに、3P5Fとはどのようなものかご存じでしょうか。3Pは3つの視点 (Perspectives)、5Fは5つの共通要点 (Common Factors)が定義されています。

この3P5Fは2020年9月の「持続可能な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」という報告書で提唱されました。通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれる、経営環境の変化に伴う人材戦略について述べられたレポートです。人事版伊藤レポートに関しましては、以下の記事で詳しく解説しています。

 

3P5Fの5Fとは

5つの共通要点 (Common Factors)は「動的な人材レポートフォリオ」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」「時間や場所にとらわれない働き方」が定義されています。以下の図のように人材戦略はビジネスモデルや経営戦略と連動させて考える際に必要な視点です。

今回は5Fの5つの共通要点 (Common Factors)について、事例とともに紹介していきます。

 

2. 5Fの各項目解説

 

要素1:動的な人材ポートフォリオ

経営戦略の実現には、必要な人材の質と量を充足させて中長期的に維持することが必要です。このために、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要があります。

 

(1)将来の事業構想を踏まえた中長期的な人材ポートフォリオのギャップ分析  

企業価値を持続的に向上させるため、目指すべき姿と現状のギャップを明らかにした上で、中長期的な視点から必要な人材の質と量を定義し、人材確保の方針を明らかにする必要があります。
将来的なビジネスモデルや戦略を追求しづらい場合もあるため、ニーズが明確な部分に焦点を当てて現状のギャップを把握していきます。

 

(2)ギャップを踏まえた、平時からの人材再配置、外部からの獲得 

人材ポートフォリオのギャップに基づき、必要な人材を可能な限り早く獲得する必要があります。
既存事業の高度化や事業拡大などは、企業内での計画的な配置によって確保することを検討しますが、新規事業の立ち上げやDX推進など社内で知見を持ち合わせていない場合は、社内の人材に過度にこだわらず外部獲得を検討します。必要人材確保の一環として、アルムナイとの持続的な関係構築を行うことによる、経験・知見を持った社員の復帰も注視されています。

 

(3)学生の採用・選考戦略の開示  

4月入社を固定している限りでは、学生が留学や企業、NPO 活動のような多様な経験を積みにくい現状があります。将来にわたっての活躍が期待される重要な人的資本の採用として、通年採用や分野別採用など、オプションを検討して採用方法を多様化させる必要があります。
また、学生は企業に対し存在意義や事業機会など多様な人材が受け入れられる風土を求めているため、人的資本経営の方針について学生へ発信することも必要な取り組みになります。

 

(4)博士人材などの専門人材の積極的な採用 

博士人材を始めとする多様な専門人材を社内に取り組むことは、研究開発やイノベーションにつながります。博士人材は、高度な専門性に限らず深い思考力や構想力があるため、研究部門に捉われず経営企画部門などにおいても活用することを検討します。
一方で、博士人材の持つ専門性が高度な故に、企業側が自社の事業にどう生かすのか判断することが難しい場合もあります。このために、企業は博士人材の専門性を踏まえた上で自社の事業・研究におけるニーズと合致しているのか、入社前から本人と協議していくことが大切です。

KDDI株式会社の事例:KDDI DX UniversityでのDX人材育成

今後の事業戦略の観点から目指す姿と現状の間の人材ギャップを把握し、不足分を採用・育成・配置によって埋めようとしています。育成に関しては、グループ全体でDX人財を4,000名規模に拡大することを目的とし、中核を担うDXコア人材をKDDI DX Universityで500名育成することを目標としています。

KDDIグループのDX人財を2023年度までに4,000名規模に拡大

 

要素2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

非連続的なイノベーションの原動力である個々の掛け合わせのために、知と経験のダイバーシティを積極的に取り組む必要があります。
同質性の高いチームから多様性のあるチームへと変化する中で、社内外の協働の在り方を見直す必要があります。

(1)キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング  

まずは経営戦略の実現に必要な知・経験を明確にし、それらを持つ人材が社内に定着するよう能力を発揮できる環境を整えることが重要です。具体的には、自社の経営戦略に照らし合わせて、どのような知・経験を持つ人材がどの程度必要なのか、目標となる比率や考え方について整理します。
また、外部からの獲得に限らず、すでに社内にいる社員の多様な能力が発揮されるような環境整備を行う必要があります。

 

(2)課長やマネージャによるマネジメント方針の共有  

社内でキャリアを重ねた人材を率いてきたマネジャーにとっては、多様な知・経験を持つ人材を活かすことは難しいことがあります。そこで、マネジャーは多様な知・経験を持つ人材にマネジメント方針を開示したり、改善を重ねたりする中で、環境を整えていくことが必要になります。
また、マネジャーにとってはメンバーに具体的な指示を与えてマネジメントする方が短期的に成果を出しやすいです。しかし、組織の成長のためにはマネジメントで失敗を重ね、マネジメントスタイルの試行錯誤が必要なため、マネジャーの評価では試行錯誤自体を評価する運用する必要があります。

三菱ケミカルグループの事例:アンコンシャス・バイアス研修の実施

経営リーダーの多様化を進めるために、社内外の幅広い経験を有する人材で経営判断を行い、海外人材の登用と現地従業員の集中育成を進めています。また、経営チームのダイバーシティの確保だけでなく、アンコンシャス・バイアス研修などを行うことによって、従業員が意識を変えられるように取り組んでいます。 

三菱ケミカルグループ KAITEKI REPORT 2022

 

アンコンシャスバイアスについては、こちらの記事で詳しく解説しております。簡単なチェックリストも掲載しておりますので、一緒にご覧ください。

アンコンシャスバイアス・チェックリスト!無意識に偏見を持って生きていませんか? - LEADERS (seattleconsulting.co.jp)

 

要素3:リスキル・学び直し

経営環境の急速な変化に応じるためには、社員のリスキル・自律的なキャリア形成の学び直し支援が必要です。 企業は、社員がスキル・キャリア上への意向や意欲を持って取り組む学習領域のプロセスについて支援が重要になります。

(1)組織として不足しているスキル・専門性の特定  

まずは、経営戦略実現の障害となっているスキル・専門性を特定する必要があります。
そうすることにより、教育訓練投資の効率も測りやすくなります。迅速にリスキル・学び直しを進めていくために、精妙な把握にこだわり過ぎずにアンケートなどでリスキルの対象となるスキル・専門性や対象人数を把握します。
 

 

(2)社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播 

自社に不足するスキル・専門性を有するキーパーソンを登用するだけでなく、スキルの伝播を任せることで周囲人材のリスキル・学び直しを誘導します。また、キーパーソンに依存し続けることがないよう、リスキルの主導を担える後継者の育成も計画的に行う必要があります。

 

(3)リスキルと処遇や報酬の連動  

組織に不足するスキル・専門性の習得を社員に促し、学びに挑戦する姿勢を称える企業文化を醸成するために、成果に応じてキャリアや報酬に反映できるよう、体制の見直しをする必要があります。
また、リスキルに取り組む社員が孤立しないよう、学習の過程で理解が進まない社員が互いに学び合える環境を設けることが求められています。

 

(4)社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学など)  

組織で不足しているスキル・専門性のうち、社内での学習環境が習得するために十分でない場合もあります。その際は、サバティカル休暇や留学などの社外学習が実用的なこともあります。社外で学習した社員は、学びをその社員だけで終わらせるのではなく、自らの学びを他の社員に共有する場を設けると伝播効果が期待できます。

 

(5)社内起業・出向起業などの支援  

社内起業や出向起業の支援により、会社全体を統括する経験や、ビジネスモデル・事業プロセスについての経験を積むことができます。しかし、成功が事前に保証されているものではないため、自ら手を挙げた強い希望に基づく人材が挑戦できる仕組みにする必要があります。

キリンホールディングスの事例: 若手から生まれたキリンアカデミア

1人の若手社員が手を挙げ、4人のメンバーで立ち上げが決まったのがキリンアカデミアです。「キリンの挑戦志向の風土を醸成する」をゴールに、部署や会社の枠を超えたワークショップやセミナーを開催しています。取り組みを行っている社員の方は、業務外の有志活動が表彰されたことで、モチベーションが上がり使命感を感じるようになったと述べています。

キリンに挑戦志向の風土を醸成する。企業内大学「キリンアカデミア」に込められた想い

 

要素4:従業員エンゲージメント

経営戦略の実現には、社員が能力を十分に発揮するために社員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことのできる環境の整備が重要です。

会社の成長と個人の成長の方向性を一致させていく必要があり、画一的なキャリアパスではなく、多様な就業経験や機会の提供が求められています。

(1)社員のエンゲージメントレベルの把握  

自社にとって重要なエンゲージメント項目を整理し、社員のエンゲージメントについて定期的に把握する必要があります。パルスサーベイなどを通じて、課題を抱えている社員の把握や、エンゲージメント低下の要因について分析することが可能になります。

それに伴い、個人へのフォローアップに限らず組織に共通する課題の抽出や経営陣へ提起を担う担当者の設置も検討する必要があります。

 

(2)エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサイメント  

CEO・CHROは、エンゲージメントレベルが高い社員・低い社員のそれぞれに対して適切な提案を行う必要があります。エンゲージメントが高い社員に関しては、社員のキャリアプランと会社のニーズを一致させ、成長に資するアサインメントを提案することでさらなるエンゲージメントの向上に繋げることができます。一方、エンゲージメントが高くない社員に対してキャリアの意向を確認し、より適切なアサインメントの提案を行います。

これにより、組織の成果を高めつつエンゲージメントを向上させることができます。これらの適切なアサインメントを行うために、各社員のエンゲージメントレベルを常に活用可能な状態としておく必要があります。

 

(3)社内のできるだけ広いポジションの公募制化 

CEO・CHROは社員が自律的にキャリアを形成を行い、高いエンゲージメントレベルで働ける環境を整備します。可能な限り公募制で行うことにより、エンゲージメントの向上だけでなく、社員がキャリアプランを自律的に考えるきっかけになり、新たな職務領域に挑戦する機会に繋がります。異動後のミスマッチを避け、社員の挑戦意欲が生まれるよう、各ポジションの求められる要件や業務内容に関して具体的に示す必要があります。

 

(4)副業・兼業などの多様な働き方の推進 

社員の企業・社会に貢献しようとする主体的な意思を最大限尊重し、副業・兼業を含む多様な働き方を選択できるように環境を整備することは、エンゲージメントの向上にもつながります。また、副業・兼業によって得た社員の知識・経験やエンゲージメントの向上は、中長期的に会社にとって有益なものとなります。

 

(5)健康経営への投資とWell-beingの視点の取り組み  

前提として、Well-beingは多義的なものであり、社員にとって多種多様であることを理解する必要があります。そのうえで健康経営やWell-beingに対する取り組みは、個人と組織のパフォーマンス向上に向けた重要な投資と捉え、戦略的・計画的に取り組んでいく必要があります。これらの取り組みは、生産性の向上、企業イメージを高められるだけでなく、組織の活性化や企業業績の向上も期待されるため、経営陣に求められる重要な取り組みの一つであると言えます。

旭化成株式会社の事例: エンゲージメント向上施策「KSA」

「活力と成長アセスメント」の頭文字を取ったKSAでは、個人と組織の状態を可視化しPDCAを効率的に回す取り組みがされています。毎年1回サーベイを実施し、組織ごとの結果をラインマネジャーにフィードバックすることで、各組織が当事者意識を持って課題解決に取り組んでいます。また、KSAの中の「上司部下関係・職場環境」「活力」「成長行動指標」の3つの指標のうち、「成長行動指標」をKPIとして注視し、年々順調に数値を推移させています。

旭化成レポート2023

 

要素5:時間と場所にとらわれない働き方

いつでも・どこでも・働くことができる環境を整えることは、事業継続の観点から必要性が高まってきています。マネジメントの在り方や業務プロセスの見直し、組織としてどう対応できるかが重要となっています。

(1)リモートワークを円滑化するための、業務デジタル化の推進  

コロナ禍を契機にリモートワークが急速に普及しました。国土交通省の調査によると、コロナウイルス感染収束後のリモートワーク継続意向は84%であり、多くの従業員が今後もリモートワークを継続していきたいと考えていることがわかります。

このように、コロナ禍を契機とした需要の高まりにとどまらず、時間や場所に捉われない働き方を求める声は高まってきており、これらのニーズに対応できる体制の構築が必要になってきています。具体的には、コミュニケーションツール・社内決裁のデジタル化、サテライトオフィスなどの整備、リモート環境を前提としたマネジメントの見直しが挙げられます。

 

(2)リアルワークの意義の再定義と、リモートワークとの組み合わせ 

CEO・CHROはリモートワークの推進とともに、リアルワークの有効性についても再考し、それぞれの最適な組み合わせの実現を行う必要があります。業界や職種によっては、リアルワークの方が生産性の向上やイノベーション創出を実現しやすいと考える企業もあります。個人と組織のパフォーマンスを最大化するために、各社がリモートワークとリアルワークをどのように戦略的に組み合わせるか判断し方針を明確にする必要があります。

富士通株式会社の事例: Work Life Shift

「誰もが活躍できる社会を創り働くことと暮らしを、もっと豊かに彩れる世界へ」というビジョンのもと、未来の働き方をデザインしWell-Beingと持続可能な社会の実現を行っています。富士通HPでは、Work Life Shiftがもたらした変化として、「テレワーク継続80%」や「通勤時間の減少30時間/月(1人当たり) 」などを挙げており、この取り組みによって1人ひとりのWell-Beingの実現、エンゲージメントの向上、パーパス実現に繋げています。
Work Life Shift:富士通

 

3. まとめ 

ここまでご覧いただきありがとうございます。
3P5Fの5つの共通要点について、具体的な取り組みがイメージできましたでしょうか。

詳細や事例とともに、5つの共通要点を細かく解説したため、人的資本経営への取り組みについてどこから始めるべきか、順序立てることが難しいかもしれません。人材版伊藤レポートでは、これらを事業内容や環境に応じて取り組むことを推奨しております。まずは「要素1:動的な人材ポートフォリオの取り組み」から始め、社内の人材に関して把握したうえで必要な制度や環境を構築すると良いかもしれません。

前回の前編では、3P(3つの視点 (Perspectives))について紹介していきます。LEADERSでは、他にも人的資本や人材戦略に欠かせないワードについて解説しております。関連記事を記載していますので、ぜひチェックしてみてください。  

 

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