プロジェクト推進のためにKPI設定を行うことはメジャーですが、プロジェクトの成功を追求するには、KPIの設定だけでは不十分です。
成功の鍵となるのは、KPIを支えるKSF(キーサクセスファクター)です。
この記事では、KSFの定義と重要性について詳しく探求し、具体的なKSFの例に触れながら、なぜKSFを明確に把握する必要があるのかを解説します。
さらに、KSFとKPIの違いについても明確に定義し、プロジェクト戦略の最適化に向けた重要な手法をご紹介します。
1. KSFとは
それではさっそくKSFについて詳しく見ていきましょう。
KSFの定義と概要
KSFとは、Key Success Factorの略で、特定の目標やプロジェクトの成功に不可欠な要素を意味します。日本語に訳すと、「重要成功要因」となります。
つまり、企業やプロジェクトの組織戦略に基づいた目標を達成するために、その組織がどうアクションすべきかを明確にしたものがKSFです。KSFの設定方法については後ほど説明いたします。
組織戦略のKSFの具体例としては、
製品の信頼性、職場環境内の多様性、顧客エンゲージメントなど
が挙げられます。
他社と差別化する際に、
「製品やサービスの質で勝負を仕掛けるのか」
「効果的なマーケティング戦略を立てることに注力すべきなのか」
「自社または組織の成功にとって効果的な要因がどこにあるのか」
を特定し、どのように注力していけばいいのかの指標となるのがKSFになります。
KSFは組織で使われることが多いですが、個人のキャリア形成にも同じような思考を応用することもできるでしょう。
自分の強みや弱みをKSFの考え方を通じて客観的に評価することで、どのように他者と差別化するのかの戦略や、キャリアの最終目標までの具体的な道筋が立てやすくなります。
また、KSFの具体的な設定手順については[4.KSF の設定手順 ]で詳しく解説していますので、是非本記事の最後までご覧ください。
KSFの要因
KSFになりうる要因としては、大きく分けて外部要因と内部要因があります。
外部要因の例としては、市場のニーズ、競争環境、技術的進歩、顧客の嗜好などがあります。
内部要因の例としては、企業組織内の人材配置、サプライチェーン、顧客情報、企業内ノウハウなどが挙げられます。
業界別の外部要因の具体例を挙げると、テクノロジー業界では革新的な製品開発、小売業界では顧客サービスと効率的な物流がKSFとなることが多いです。これらの要因は、特に業界ごとに異なり、時には急激に変化することもあります。
外部要因である業界別・市場別の要因を理解し、内部要因である自社の強みと照らし合わせることで、どの分野に注力すべきかを明確にできます。
2. KSF を設定する重要性を理解するための4つの視点
それでは、なぜKSFを設定する事が、ビジネスの成功において重要なのでしょうか。
本章では以下に、KSFの設定の重要性を理解するための4つの視点について詳しく解説します。
競争環境の変化に適応する柔軟性
インターネットやDXの発展により、ビジネス環境は絶え間ない変化の中にあり、企業の成功にはこれに柔軟に対応する必要があります。
この柔軟性を養う鍵となるのが、KSF(Key Success Factor)の適切な設定です。
企業がKSFを明確に定義することで、市場の変動や競争環境の変化に即座に対応し、必要な戦略的調整を迅速かつ的確に行えるようになります。
例えば、消費者の嗜好の変化や新技術の登場に対応するため、ある企業ではKSFとして「顧客フィードバックの分析」を設定したとします。これにより、この企業では消費者のニーズを迅速に把握し、商品やサービスを迅速に改良できるようになりました。
一方で、柔軟性に欠ける企業は顧客からの情報を既存のシステムでアナログに管理し続けた結果、顧客のニーズの変化に気づくことができず市場変化に取り残され、競合他社に差をつけられる可能性があります。
柔軟性を高めるためには、KSFに社内外の様々な情報を取り入れ、変化に敏感な組織文化を構築することが不可欠です。
これにより、企業は新しいアイデアや従業員の意見を積極的に取り入れ、KSFを適切に調整することで、変動する市場に迅速に適応し、競争優位性を確立することができます。
効果的な意思決定
KSFは、効果的な意思決定においても重要な役割を果たします。企業が直面する多くの選択肢の中から最適なものを選ぶためには、何がビジネスにとって本当に重要かを理解することが必要です。
プロジェクトを進める際にKSFの設定がないと、プロジェクトマネージャーは状況に対する判断の優先順位がつけにくく、進捗状況を短時間で的確に把握することが難しくなります。
問題や課題の早期発見や対策の立案が困難になり、プロジェクトのリスク管理が不十分となる可能性があります。
KSFを明確にすることで、どの分野にリソースを集中すべきか、どの戦略が最も効果的かという判断を下しやすくなります。これにより、リスクを最小限に抑えROI(投資利益率)を最大化するのに役立ちます。
組織全体の共通認識と一貫性
KSFを組織全体で共有し、理解することは、社員の目標と行動を一致させる上で重要です。
目標や計画が曖昧であると、チームメンバーが一体となって効果的に働くことが難しくなります。
特に目指すべき方向性が不明である場合、タスクの優先順位や役割分担の混乱を引き起こし、プロジェクトの進行に支障をきたす可能性があります。
共通の目標に基づいてKSFを設定することで、組織内の異なる部門やチーム間での連携が強化され、一貫性のある戦略的アプローチを採ることができます。
このような一貫性は、社内の混乱を避け、効率的な意思決定プロセスを確保するのに役立ちます。
効率的なリソースの活用
企業のリソース(資金、人材、時間など)は有限です。KSFを適切に設定することで、限られたリソースを最も効果的に活用する方法を特定できます。
企業組織のKSFを理解することで、どの市場機会が最も価値があるか、またはどの業務プロセスが最も改善すべきか、どの人材をどこに配置するのが最適かが明確になり、リソース配分の決定において重要な参考指標となるでしょう。
ただし、不十分な市場分析や偏った視点からの業界分析でKSFを設定してしまうと、企業が求める成果や目標の達成から遠回りをしてしまう恐れが出てしまいます。
効率的な資源の配分を行うためにも、KSFが客観的かつ妥当性の高い要因であることをあらゆる視点やデータで精査することに注意しましょう。
3. KSF と KPI ・KGIの関係
KSFとともによく目にするKPI・KGIの意味をご存じでしょうか。
それぞれの定義があいまいな方も多いのでしょう。本章ではそれぞれの指標の定義や違いを分かりやすく説明します。
KSF ・ KPI・KGI の定義
まずKSF・KPI・KGIのそれぞれの定義を簡単に説明します。
それぞれの関係としては、以下の図に示す通りです。
KSF(Key Success Factor): 成功の鍵となる要因
KSFはビジネスの成功に欠かせない要因を指し、競争優位性を築く上でのカギを示します。
特に市場環境や競合他社に対して差別化を果たすために使われることが多い指標です。
KGI(Key Goal Indicator): 主要な目標を示す指標
KGIはビジネス戦略を設計する上で何を持って達成したかを測る指標であり、組織全体の成果を示します。
KGIは長期的な視点での目標設定に使用され、企業が望む結果や成果を具現化するために不可欠です。
例えば、市場シェアの拡大や新規事業の立ち上げなどがKGIに該当します。KGIは企業のビジョンとも密接に結びついており、組織全体が向かうべき方向を示す役割を果たします。
KPI(Key Performance Indicator): 成果を測る指標
KPIは企業の目標や戦略の進捗を測定するための指標です。
KGIで設定した目標を達成するための具体的で数値的なデータをもとに、ビジネスが計画通りに進んでいるかどうかを評価します。
KPIは組織やプロジェクトの健全性を把握し、問題が発生した際には早期に対策を講じるのに役に立ちます。 例えば、売上成績や顧客満足度などがKPIの一例です。
KSF と KPI の違い
KSF(Key Success Factors)は、組織やプロジェクトの成功に不可欠な要因や要素のことを指します。これは、目標達成や成果の最大化に寄与する重要な要素です。
一方、KPI(Key Performance Indicators)は、組織やプロジェクトのパフォーマンスを測定し評価するための指標です。
KPIは具体的で測定可能な成果や目標に関連しており、結果の追跡や進捗の評価に使用されます。
具体例として、企業のKSFは顧客満足度、競争力、イノベーション力などといった要素であり、これらが企業の成功に重要な役割を果たします。
一方、KPIは売上高、顧客数、市場シェア、時間効率などの数値であり、これらは企業のパフォーマンスを測定するために使用されます。
KSF とKGI・KPIの違い
KSFはビジネスの成功に不可欠な要素であり、KGIやKPIの達成に向けた戦略的活動や施策を指します。
KGIやKPIは主に数値で表現される一方で、KSFは定性的な側面を含みます。
例えば、「売上高130%アップ」というKGIを考えた場合、これを達成するために必要な営業活動や要素をKSFと呼びます。KSFは数値化が難しい要素も含み、例えば「顧客視点に立った営業活動」といった全体のスタンスや担当者のマインドに影響を与える要素が含まれます。
KPIもKSFと同様にKGIの達成に向けたプロセスの目標ですが、KPIは具体的な数値で設定されることが多くあります。
KSFは、目標達成に不可欠な要因であり、数値以外の要素や方針を示すものです。一方で、KPI(は具体的な数値で表され、組織やプロジェクトのパフォーマンスを測定するための指標です。KSFは目標達成のための方針や戦略を明確にし、KPIはこれらの方針の実行状況や成果を数値化して可視化する指標です。
KGIとKPIについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。OKRやMBOとの比較も解説しています。
【徹底比較】OKRとKPIの違いは?わかりやすく使い分けのポイントを解説します
4. KSF の設定手順
目標の明確化
最初に、プロジェクトや業務の目標を具体的に定義します。明確な目標がなければ、KSFの設定は意味を成しません。
例えば、新製品の市場投入が目標ならば、製品開発の迅速性や市場認知度がKSFになります。
目標に関連する要素の洗い出し
プロジェクトの成功に直接関与する要素や重要な要素を洗い出します。
大きく分けて、外部要素と内部要素に分けられます。
例えば、外部環境として競合他社や市場、顧客、政治や経済状況が挙げられるでしょう。内部環境としては、自社の強みとして製品の信頼性やブランドの認知度、経営資源として従業員満足度や設備投資費などが挙げられます。
企業や事業戦略を立てるためにKSFと設定したい場合、フレームワークを活用するとKSFに関わる要素の洗い出し・整理に効率的です。
どのフレームワークを使おうか悩まれている方はこちらの記事もご参考ください。
事業戦略策定に役立つフレームワーク7つを解説|成功事例も紹介します
要素の優先順位付け
洗い出した要素を重要度や影響度に基づいて優先順位付けします。どの要素が最も重要か、どれが成功の鍵となるのかを判断します。
優先順位をつける際は、最終的な成果に対する認識のズレが発生しないよう、企業やその組織が掲げるビジョンや戦略に基づいて設定する事が望ましいでしょう。
全てのステークホルダーが共有する優先順位を確立することで、目標への取り組みがより一層効果的になります。
KSFの設定
優先順位が高い要素を基に、最終的な組織目標やKGIに対して大きな影響を与えると考えられる具体的な要素を選定し、これをKSFとして設定します。
例えば、新製品の市場投入が目標ならば、製品開発の迅速性や市場認知度がKSFになります。KSFをもとにしてKPIを設定することで、目標の達成を具体的に評価する指標として利用できます。
この段階での重要なポイントは、KSFが抽象的でなく、具体的で測定可能な成果に結びつくようにすることです。あくまでKSFは成果を達成するための手段であり、具体的な行動につながるものであるべきです。
5. KSFを設定する際の注意点
明確な目標の定義
KSFを適切に設定するには、まず具体的で明確な目標の定義が欠かせません。企業が追求する最終目標(KGI)が不確かであれば、それを支えるためのKSFを明確にすることは難しいでしょう。
例えば、企業の売り上げ10%向上を目指す場合、その目標を「新規顧客獲得」「製品開発」「マーケティング強化」などの要因に因数分解することが求められます。
しかし、「企業価値向上」のように最終目標そのものが不明確であると、人によってその目標の捉え方が異なる危険性がある上に、KSFの抽出が曖昧になり、戦略の展開も困難です。
例えば、最終的な目標である「企業価値向上」を経営陣が「時価株主との関係向上」と捉えていたのに、マーケティング担当社員が「企業価値向上」を「商品やサービスの付加価値の向上」だと捉えている場合、それぞれの目標に対して設定すべきKSFが異なってしまうでしょう。
成功の方向性を明示化するために、関係者と協力し、明確で誰もが理解できる目標を策定しましょう。目標が整理されれば、それに至るための鍵となるKSFもより具体的に特定できます。
また、KSFの設定においては、企業の成功に影響を与える内部要因と外部要因の双方をバランスよく探ることが必要です。
内部要因は企業内で制御可能な要素であり、例えば組織文化や従業員のスキルなどがこれに該当します。
一方、外部要因は市場や競合状況など、企業が直接制御できない環境からの影響を指します。このバランスが崩れると、対策が不足した領域が企業の弱点となり、成功の障害になります。
内外の要因を検討し、戦略を策定するためには、SWOT分析やPESTLE分析などのツールを活用し、包括的な視点を確立することが肝要です。
充分なコミュニケーション
KSFの設定は組織全体での共有が不可欠です。関係者との十分なコミュニケーションがなければ、異なる視点や専門知識を取り入れることが難しくなります。
特に異なる部門や役職のメンバーとの連携は、部署や業種の垣根を超えた包括的なKSFを設定することができ、効率的に目標の達成が実行できます。
協力と情報共有が行われない状態では、異なる視点や専門知識の活用が難しくなり、個々のメンバーがKSFを理解し、実践に移すことが難しくなります。
特に、異なる部門や階層のメンバーとの連携が欠如すると、全体の最適な戦略の構築が難しくなります。
コミュニケーションが十分でないと、各メンバーが目指すべき方向や戦略に対する理解が曖昧になり、組織全体が一丸となって目標を達成することが難しくなります。
このような状況を防ぐためには、定期的なミーティングや情報共有の機会を確保し、異なる部門や担当者とのコミュニケーションを強化することが必要です。プロジェクトや目標に関する情報は透明性を持ち、全員が共有できるようにすることが肝要です。コミュニケーションを通じてアイディアを共有し、新たな視点を取り入れつつ、組織全体でKSFを共有しましょう。
定期的な見直しの実施
定期的なKSFの見直しを怠ると、環境の変化に迅速に対応できなくなります。
例えば、競合の新興企業が市場に参入したり、技術の進化が企業に影響を及ぼしたりした場合、本来は競合との差別化を図るために戦略を練り直すべきですが、既存のKSFに依存したままだと、現状に即した施策を打てなくなります。
つまり、KSFの見直しを怠うと、企業は新たな機会を逃してしまったり、課題に迅速に対応できなかったりすることで、市場における競争力を低下させる可能性があります。
このようなリスクに対処するためには、定期的な環境分析を行い、変化に敏感な組織文化を築くことが不可欠です。KSFの見直しは柔軟な経営を実現し、持続的な競争力を確保する手段となります。新たな情報やデータに基づいて定期的なブレインストーミングなど柔軟なアイデア出汁を行い、変化への適応力を高めることが望ましいでしょう。
6. KSFの具体例
組織や業界が異なれば目標も異なるように、KSFも異なります。
以下は製造業、マーケティング、小売業、IT、それぞれの業界におけるKSFの具体例を紹介します。
製造業におけるKSF
製造業におけるKSFとしては、生産性向上、品質管理、納期遵守などが重要な要素となります。
具体的な例として、製品の生産量や品質指標の達成率、生産ラインの稼働率などがKSFとして設定されることがあります。
これらのKSFの達成によって、製造業は効率的な生産体制を確立し、競争力を向上させることができます。
マーケティングにおけるKSF
マーケティングにおけるKSFは、市場シェアの拡大、顧客満足度の向上、ブランド認知度の向上などが重要です。
具体的な例として、売上や利益の成長率、新規顧客獲得の数や顧客ロイヤルティの向上などがKSFとして設定されます。
これらのKSFの達成によって、マーケティング活動は効果的な広告やキャンペーンを展開し、企業の成長と競争力の獲得につなげることができます。
小売業におけるKSF
小売業におけるKSFとしては、売上増加、顧客満足度向上、在庫管理の最適化などが挙げられます。
具体的には、売上の成長率や来店客数の増加、顧客からのリピート率の向上などがKSFとして設定されることがあります。
これらのKSFの達成によって、小売業は競争力のある商品ラインナップや優れた顧客サービスを提供でき、売上と利益の向上を実現できます。
IT業界におけるKSF
IT業界におけるKSFとしては、明確なプロジェクト目標の設定、優れたコミュニケーション能力、リスク管理のスキルなどが重要とされます。
具体的な例としては、メンバー全員が納得する明確な目標の設定、心理的安全性の高い職場環境の構築、リスクの早期発見と適切で迅速な対応がKSFとして設定されることがあります。
これらのKSFによって、プロジェクトの成果を最大化し、成功に導くために重要な役割を果たします。
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
KSFはKPIなど他の指標と紛らわしい響きですが、どんな組織においても有効に使えば目標達成に大きく貢献することができます。
最後に、本記事の内容を以下にまとめました。
KSFとは、特定の目標やプロジェクトの成功に不可欠な要素(重要成功要因)を意味します。
KSFの設定手順は、以下の4つです。
- 目標の明確化
- 目標に関連する要素の洗い出し
- 要素の優先順位付け
- KSFの設定
KSFとKPIの主な違いは、KSFが成功要因を意味するのに対し、KPIは結果や成果を測定するための指標として使用される点です。
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