人材を資本と見なす人的資本経営が注目される中、政府と企業によって設立された「人的資本経営コンソーシアム」への関心が高まっています。この記事では、複数の企業が参加する人的資本経営コンソーシアムが果たす役割やその目的に焦点を当て、参加企業の事例も交えながら詳細に解説します。
人的資本や人的資本経営について学び始めたばかりの方でもわかるように解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 人的資本経営コンソーシアムとは
人的資本経営コンソーシアムの概要
人的資本経営コンソーシアムは、企業と政府が協力して2022年8月に設立された組織で、人的資本経営を実践と開示の両面からサポートすることが目的とされた団体です。経済産業省や金融庁もオブザーバーとして参加し、先進的な取り組みの共有や様々な議論が行われています。さらには国内外の人的資本に関する情報を収集し、発信、普及させるとともに、人的資本経営の実践を促進するために、会員と投資家が対話できる場も提供されています。
この活動は投資家との関わりも深く、人的資本経営の促進を通じて企業の成長を支援しています。経営陣の主導で持続的な成長を目指し、人的資本経営の重要性を理解した多くの企業が入会されています。2024年2月2日時点で会員数は559となります。
人的資本経営コンソーシアムの設立背景
企業価値向上を目指す中で、人材を資本として最大限に活用する「人的資本経営」への注目は説明不要なほど高まっています。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(上場企業が参照すべきガイドライン)では、人的資本に関する情報開示の必要性が記述され、2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」の公表により人的資本経営の重要性が拡散しました。
また企業価値評価における人的資本の重要性が高まる中、人的資本情報の開示に関する国内外での議論が進んでいました。日本では、有価証券報告書において、中期的な企業価値向上に向けた人材戦略や、女性管理職比率、男女間賃金格差などが開示項目として検討されていました。(その後、2023年3月期決算以降の有価証券報告書において人的資本の情報開示が義務化されました。)
そういったことから経営陣が企業の中長期的な成長に向け人材戦略の立案を主導し、実行に移すと同時に、その方針を投資家や関係者に説明することは、持続的な企業価値向上に不可欠です。そのため先進事例の共有や企業間の協力促進、効果的な情報開示の検討を行う場として、「人的資本経営コンソーシアム」が設立されました。
参考:設立趣意書|金融庁
人的資本の情報開示が義務化についてより知りたい方はこちらの記事も併せてご覧ください。
人的資本開示の基本|対象企業,時期,中小企業も準備すべき理由とは?
人的資本経営コンソーシアムの構成
人的資本経営コンソーシアムは、全体を統括する「総会」、その下に「企画委員会」が設けられ、さらに下に「実践分科会」と「開示分科会」が併設されています。また総会のもとに「会員と投資家との対話の場」も設けられています。
総会
総会は基本的には年に1度開催されますが、必要に応じて開催されます。総会では、コンソーシアムの事業や運営に関する基本的事項について審議します。その際会員は各一票の議決権を持ちます。
また総会は、次の企画委員会の構成員を選定します。
企画委員会
企画委員会は人的資本経営コンソーシアムの執行機関としての役割を担います。総会によって選出された構成員で構成され、コンソーシアム全体の事業計画や報告書、予算や決算、分科会の設置や運営及びその他の重要事項に関して審議し決定します。
実践分科会
実践分科会では、人的資本経営に関する先進事例の共有や企業間の協力に対する議論を実施しています。また上記活動を円滑に進めるため、方針の決定やその他の規定を自ら定めることができます。
開示分科会
人的資本の情報開示に関して議論をする会で、情報開示の効果的な在り方について議論がされています。
2. 人的資本経営コンソーシアムの発起人や参加企業
設立メンバー(発起人)
人的資本経営コンソーシアムは発起人代表である一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏と他6名の合計7人の方により設立されました。
- 一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏【発起人代表】
- キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長 磯崎 功典氏
- 株式会社リクルート 代表取締役社長 北村 吉弘氏
- SOMPOホールディングス株式会社 グループCEO 取締役代表執行役会長 櫻田 謙悟氏
- 株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役 東原 敏昭氏
- ソニーグループ株式会社 取締役 代表執行役 会長 CEO 吉田憲一郎氏
- アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長 杉原 規之氏
※2023年4月28日より、発起人がアセットマネジメントOne株式会社 前代表取締役社長 菅野暁氏より同社 取締役社長 杉原規之氏に引き継がれました。
参加企業
人的資本経営コンソーシアムの会員数は冒頭で上述した通り2024年2月2日時点で559です。入会するためには以下3つを満たしていることが期待されるため、基本的には法人であると考えられます。そのため559法人と言えるでしょう
入会にあたって期待される3点
- 国内に事業所を有し、現に事業活動を行っている法人であること
- 相当数の従業員を対象に人的資本に関する取組を行っていること
- 有価証券報告書や統合報告書等で人的資本情報の開示を行っていること
以下の法人等が入会されています。
- 出光興産株式会社
- 株式会社大林組
- 株式会社IHI
- 関西電力株式会社
- 株式会社アイエスエフネット
- 株式会社アルプス物流
- イオン株式会社
- あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
- 株式会社アスコット
- 株式会社揚羽
- 株式会社ダイナム
- 株式会社学研ホールディングス
- Dr.Ridente株式会社
- 一般社団法人iCD協会
- アストナリング・アドバイザー合同会社
- 高倉&Company 合同会社 共同代表 高倉 千春
など(順不同)
3. 人的資本経営コンソーシアムへの入会方法
ここまでご覧いただき、これから人的資本経営を本格的に進めるためにも人的資本経営コンソーシアムへ入会を検討したい方もいるかと存じます。当章では入会方法についてまとめます。
現在は人的資本経営コンソーシアムへの入会を通年で受け付けられています(2024年1月19日より)。コンソーシアムの設立趣旨に賛同した上で、人的資本経営の実践している取り組みや情報開示を共有することが可能な方は、事務局まで問い合わせを行うことで入会申請書を受領できます。
またその他にも前章で記述した通り下記の3点を満たしていることが必要です。
- 国内に事業所を有し、現に事業活動を行っている法人であること
- 相当数の従業員を対象に人的資本に関する取組を行っていること
- 有価証券報告書や統合報告書等で人的資本情報の開示を行っていること
入会費や年会費は無料となっています。
4. 人的資本経営コンソーシアムの好事例集の紹介
令和5年10月に経済産業省から発表された[人的資本経営コンソーシアム 好事例集]を参考にいくつかの好事例を紹介します。(紹介する事例は順不同です。)
また今回紹介する事例以外にも、非常に参考になる事例が46社分掲載されていますのでぜひご覧ください。
旭化成株式会社
旭化成株式会社の事例では、実践の取組が2つ、開示の取組が1つ紹介されています。
実践の取組では新規事業創出や事業強化に向けた「高度専門職」の確保を重視していることが挙げられています。「高度専門職」とは事業の拡大や創出に必要な領域で社内外に通じる専門性を持つ人材と定義されています。また当格人材にはマネジメント職の社員と同等水準の待遇がされています。
また研究開発や事業企画、人事に博士人材を登用することでイノベーション創出の推進もされています。具体的な博士人材の専門性発揮に向けた取組も紹介されています。採用においては、博士の採用は博士が担当し、候補者の抽出や研究能力の見極めなどの場面で専門性や経験を活かされています。働き方においても、研究開発部門においては、業務の20%を自由な研究に充当させることが可能で、周囲との交流によるイノベーション創出が期待されています。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスでは、IT・DX人材の確保に向けた拠点作りに関する実践事例、転勤不要の働き方が可能な制度導入に関する実践事例、性別・経歴にとらわれない情報開示の事例が紹介されています。
2つ目の働き方制度は、「多数精鋭」の組織作りから全社員の環境整備への取組から発展したものです。転居不要の働き方を求める社員の声に応え「マイエリア制度」という制度が導入されています。当制度は、首都圏・関西圏に居住している社員のうち希望者は、報酬減額なく転勤を命じられない権利を得るものです。またこの対象エリアについては、今後拡大を予定されています。一方で、報酬減額がない点からか、転勤のインセンティブを転勤時の手当の最大4倍に高められています。
株式会社北國フィナンシャルホールディングス
株式会社北國フィナンシャルホールディングスの事例では、実践の取組が1つ、開示の取組が2つ紹介されています。
当社では社員のキャリア形成や自律的成長に対する実践・開示取組が行われています。実践の取組では、社内副業制度を導入しキャリア形成の支援を行われています。これまでに全社員の1/4にあたる526名が制度を利用されていて、実際に人事異動を経てキャリアチェンジをされた方もいらっしゃいます。参画期間は3ヶ月から1年とされており、募集は年2回実施されています。
またそういったキャリア人材など多様な人材の活用や社員の専門性向上を図り人事制度を抜本的に見直されました。初任給の引き上げ(20.5万円から26.4万円)、上長との対話により決定され賃金の評価制度、年功や勤続年数に依存する退職一時金から賃金への振替など様々な処遇が見直されています。
5. まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。人的資本経営コンソーシアムについての概要解説を通じて、新たな知識や理解を得ることができましたでしょうか。
人的資本経営コンソーシアムは、人的資本経営の実践と開示の両面からサポートすることを目的に設立された組織です。発起人や参加企業の紹介、入会方法、さらには好事例についても解説しました。これらの事例は読者の皆様の実際の業務や経営戦略においても参考になることでしょう。
最後に、人的資本経営コンソーシアムが、企業の成長や競争力向上にどのように貢献しているか、改めて確認しました。これからも、人的資本経営の重要性を理解し、実践に取り組む上で、この記事が一助となれば幸いです。
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