相乗効果

【ISO30415】組織の人的資源管理における多様性と包摂性(D&I)の統合に関する国際規格

ダイバーシティ、インクルージョン (D&I) は、世界的に議題となっているトピックです。投資家からも注目が高まり、D&Iの経済的メリットに対する認識が高まっています。調査によると、インクルージョンに積極的に取り組む企業は、より良い業績を達成する可能性が8倍高いことが示されています。 D&Iが進み、多様なリーダーシップチームを擁する企業は、イノベーションを生み出しより高い利益を上げています

本記事では、2021年に多様性と包括性(D&I)を組織の人的資源管理に統合するための指針を提供する国際規格(ISO30415)について解説していきます。また、 DE&Iが注目されている背景も解説していきます。

1, D&Iとは、

Diversity and Inclusion(D&I)は、多様性と包摂性を意味し、組織内で異なる背景や特性を持つ人々の存在を認め、その違いを尊重する取り組みのことです。

多様性(Diversity)
多様性は、人種、性別、年齢、宗教、性的指向、障害の有無など、個人のさまざまな属性や背景を含みます。組織はこれらの違いを尊重し、異なる視点や経験を持つ人々を受け入れることが重要です。

包摂性(Inclusion)
包摂性は、すべての従業員が公平に扱われ、自分の意見を自由に表現できる環境を作ることを意味します。これにより、従業員は自分らしく働き、最大限のパフォーマンスを発揮することができます。

多様性については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。

 

D&Iの重要性 

D&Iの実践には、組織にとってさまざまな利点があります。多様な視点を取り入れることで、創造性と革新性が促進され、問題解決能力が向上します。また、包摂的な環境は従業員の満足度やエンゲージメントを高め、離職率の低下にもつながります。

D&Iの推進 

D&Iを推進するには、経営層のリーダーシップが必要です。具体的には、多様性に関する教育や研修の実施、公平な採用プロセスの確立、柔軟な働き方の導入などが考えられます。また、D&Iの目標設定と進捗の定期的なレビューも重要です。

D&Iの取り組みは、組織の持続可能な成長や社会的責任の達成に寄与します。

2, ISO30415とは、

ISO30415は、組織の人的資源管理における多様性と包摂性(D&I)の統合に関する国際規格です。この規格は、組織が平等で多様な労働環境を創出し、多様な人材の参画を促進するための枠組みを提供します。ISO30415は、組織のガバナンス、リーダーシップ、ポリシー、実践、評価方法に関する指針を含み、D&Iの推進を通じて持続可能な発展目標(SDGs)への貢献を目指しています。

ISO30415の前にも、世界中でその国独自の規格や法がありました。

・ノルウェー規格 NS 1120:2018「ダイバーシティ マネジメント システム」
・イタリア規格UNI/PdR 125:2022「ジェンダー平等マネジメントシステム」

ISO30415は、世界基準として2021年に制定されました。

以下に、その主要な要素と詳細を示します。

D&Iに対する説明責任と責任 

ガバナンス機関の役割

  • D&I戦略の策定とその監視
  • D&Iに関する目標の設定と進捗の評価

リーダーシップの責任

  • D&Iの価値を推進し、組織全体に浸透させる
  • リーダー自身がD&Iの模範となる

 

D&Iへの継続的な取り組みを実証するための要件 

D&I推進のための具体的ステップ

  • D&I方針の策定
  • D&Iに関する教育とトレーニングの実施

ポリシーと手続きの整備

  • 採用、昇進、給与などにおける公平性の確保
  • 差別やハラスメントに対する対策

 

多様性を尊重し、包括的な職場の開発を促進するアプローチ 

トレーニングと教育

  • 全社員を対象としたD&I研修
  • リーダーシップトレーニング研修

意識向上活動

  • D&Iに関する情報発信やイベントの開催
  • 社内コミュニケーションの強化

 

D&Iの目標、機会とリスク、行動、対策、成果、影響を特定 

D&Iの推進による組織のメリット

  • 従業員のエンゲージメントや満足度の向上
  • イノベーションの促進と市場競争力の向上

予想される課題とその対策

  • 既存の文化や価値観との衝突
  • D&Iの効果測定と改善のための継続的な取り組み

 

3, D&Iが注目される時代背景

多様性と包括性(D&I)が注目される背景には、以下のような時代の流れと社会的要因があります 

グローバル化の進展

1990年代から現在にかけて、グローバル化の進展により、異なる文化や背景を持つ人々が労働市場に参入し、多様な人材の受け入れが増加しました。 

技術革新と労働力の変化

2000年代以降、技術革新により、新たなスキルセットや柔軟な働き方が求められ、多様な働き手が重要視されています。 

社会的価値観の変化

2010年代から、#TimesUp運動ジェンダー平等LGBTQ+権利運動などのジェンダー平等や人種差別撤廃の社会運動が活発化し、平等な労働環境の整備が企業の責任として認識されています。 

経済的効果の認識

2020年代以降、研究により、多様性のある組織がより高いイノベーション力と業績を持つことが示され、D&Iが企業の競争力向上に直結する要素として認識されています

法規制の強化

現在、多くの国でD&Iに関する法規制が強化され、企業は法的要件を満たすためにD&Iの取り組みを進める必要があります。以下に一例を紹介します。

アメリカ合衆国

EEOC(Equal Employment Opportunity Commission)ガイドライン

OFCCP(Office of Federal Contract Compliance Programs)ガイドライン

欧州連合(EU)

EU Anti-Discrimination Directives

オーストラリア

Workplace Gender Equality Act 2012

カナダ

Employment Equity Act

日本

男女雇用機会均等法

 

SDGs(持続可能な開発目標

2015年以降、国連のSDGsに関連する目標(例:ジェンダー平等、不平等の削減)が企業に対する社会的期待として反映され、企業はこれらの目標にコミットすることで社会的信用を高めることが求められています。 

ISO30415の基準は職場における人権の原則に基づいており、以下の国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に関連しています。 

(5) 男女平等
(8) ディーセント・ワークと経済成長
(9) 産業、イノベーション、インフラ
(10) 不平等の減少

これらの背景により、D&Iは単なる道徳的・倫理的な課題に留まらず、企業の持続可能な成長と競争力の確保に不可欠な要素されています。企業はD&Iを推進することで、イノベーションを促進し、労働力の多様性を活用し、より公平で魅力的な職場環境を提供することが求められています。

4, D&Iと企業価値

近年、世界の企業時価総額ランキングにおいて、上位を占める企業にはいくつかの共通した特徴があります。その一つがD&Iの重視です。欧米を中心に無形資産への投資を注視する起業家が増えてきています企業価値D&Iは切り離すことができなくなってきています。 

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の増加 

投資家の間でESG要素を重視する動きが広がっており、特に「S(社会)の要素としてD&Iが重要視されています。企業がD&Iを積極的に推進することは、投資家にとって魅力的な要因となり、結果的に時価総額の向上に寄与しています。 

グローバル化の進展

グローバル市場での競争が激化する中、異なる文化や背景を持つ人材を受け入れることが、国際競争力の向上に直結しています。D&Iを推進することで、多様な視点やアイデアを取り入れることが可能となり、企業のイノベーション力が強化されます 

消費者の意識の変化

消費者もまた、D&Iに敏感になっています。企業が多様性と包括性を尊重する姿勢を示すことは、ブランドイメージの向上顧客ロイヤルティの強化につながります。これが売上増加を通じて時価総額に反映されるケースも増えています。 

5, D&Iで取り組むこと

D&Iを組織で効率的に取り組んでいくためには、社員に対して教育を行うだけでなく組織体制を構築していくことが必要になります。自社にとってできるところから進めていきましょう。 

多様性の認識

  • 多様性と包摂を推進するための戦略を策定し実行する能力を持つリーダーを育成
  • 公正で平等な職場環境を維持
  • 多様なチームを率いる際に適切なコミュニケーションと調整を行う
  • D&Iに関連する目標を設定し、その達成に向けた取り組みを監督

 

効果的なリーダーシップ

  • 職場で異なるバックグラウンド、経験、視点を持つ人々の価値を理解し尊重すること
  • 人種、性別、年齢、宗教、性的指向、障害の有無など、さまざまな属性を含む
  • 異なる意見やアイデアを積極的に取り入れ、組織の創造性とイノベーションを促進する

 

責任を持って行動する

  • 個人および組織全体がD&Iに対する責任を認識し、それに基づいた行動を取る
  • D&Iに関連するポリシーやガイドラインを遵守
  • 不公正な行動や差別を防止するための対策を講じる

 

包括的な職場環境の構築

  • すべての従業員が自己の全てを表現し、貢献できる安全で支持的な環境を提供
  • 柔軟な働き方の導入
  • 差別やハラスメントの防止
  • 従業員の声を反映する仕組みの整備

 

D&Iの推進と擁護

  • D&Iの価値を広め、職場や社会全体でその重要性を訴える活動を行う
  • D&Iに関するトレーニングや教育プログラムの実施
  • D&Iを支持する社内外のイベントやキャンペーンの開催
  • D&Iを支援する政策提言

 

6, ISO30414との違い

ISO30415とISO30414はどちらも人的資源管理に関する規格ですが、その目的と内容に大きな違いがあります。それぞれの規格の特徴を説明します。

【 ISO30414の概要 】
ISO30414は、人的資源管理のパフォーマンスを測定し、報告するための指標を提供する規格のことです。この規格は、企業がHR活動の効果を評価し、ステークホルダーに透明性を持って報告するためのフレームワークを提供しています。具体的には、以下のような項目が含まれます。

・組織のデモグラフィック(性別、年齢、役職など)
・労働力の採用、離職、昇進のデータ
・従業員の健康、安全、福祉
・教育とトレーニングの機会

 

【 ISO30415の概要 】
一方、ISO30415は多様性と包括性(D&I)の推進に焦点を当てた規格のことです。この規格は、組織がD&Iを効果的に実施するためのガイドラインを提供します。ISO30415では、以下のような項目が含まれます。

・D&Iに関する基本的な前提条件と定義
・D&I推進のためのガバナンスとリーダーシップの責任
・多様性を促進するための具体的なアクションとポリシー
・従業員の教育と意識向上活動

ISO30414は、HRパフォーマンスの測定と報告に焦点を当て、企業の透明性を高めるための規格になっています。一方、ISO30415は、多様性と包括性の推進に焦点を当て、企業が多様な人材を受け入れ、公平な環境を提供するためのガイドラインを提供しています。どちらの規格も企業の人的資源管理において重要な役割を果たしますが、そのアプローチと目的は異なります。企業は、自社のニーズと目標に応じてこれらの規格を適用し、持続可能な成長を実現することが求められます。

ISO30414については、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

 

7, D&Iに取り組む弊害

多様性とインクルージョン(D&I)を推進することは、多くの組織にとってメリットがありますが、その一方でいくつかの弊害や課題も存在します。以下は、D&Iの取り組みに伴う主な弊害になります。

1. 逆差別のリスク

D&Iの取り組みが行き過ぎると、特定のグループに対する優遇措置が逆差別と見なされることがあります。これにより、他のグループからの不満や抵抗が生じる可能性があります。

例えば、多様性を増やすために特定の性別や人種の候補者を優先的に採用することで、実力のある他の候補者が不公平に感じることがあります。 

2. 文化的衝突

多様なバックグラウンドを持つ人々が集まると、文化的な違いや価値観の相違が原因で衝突が生じることがあります。これにより、コミュニケーションの障害やチームワークの低下が発生し、職場の雰囲気が悪化するリスクがあります。

3. コストの増加

D&Iプログラムの導入やトレーニングの実施には、時間と費用がかかります。これには、外部のコンサルタントの雇用、従業員のトレーニング、D&Iの専門家の採用などが含まれます。これらのコストは、中小企業にとって特に負担となることがあります。

4. 一貫性の欠如

D&Iの取り組みが組織全体で一貫して実施されない場合、効果が薄れる可能性があります。一部の部門やチームでのみ取り組みが行われていると、組織全体の文化に根付かず、従業員間で不満が生じることがあります。

5. 過度な政治的正しさ

D&Iの推進が過度になると、職場での自由な意見交換が制限されることがあります。従業員が誤解や誤った表現を恐れて意見を控えるようになると、オープンなコミュニケーションが阻害され、創造性やイノベーションが低下するリスクがあります。

6. 本質的な変化の欠如 

D&Iの取り組みが形式的なものにとどまると、実質的な変化が生じないことがあります。例えば、多様性を促進するためのイベントやキャンペーンが行われても、日常の業務や組織文化に根本的な変化がない場合、従業員の意識や行動に影響を与えることは難しいです。

7. パフォーマンスの低下

D&Iの取り組みにより、チームのメンバー構成が急激に変わると、既存のチームダイナミクスが崩れ、一時的にパフォーマンスが低下することがあります。特に、新たに加わったメンバーが適応するまでの間、チーム全体の効率が低下する可能性があります。

8. ステレオタイプの強化

多様性を強調することで、逆にステレオタイプが強化されることがあります。例えば、特定のグループが「多様性枠」として扱われることで、そのグループのメンバーが真に実力で評価されていないと感じることがあります。 

これらの弊害を回避し、D&Iの取り組みを効果的に推進するためには、組織全体での理解と協力が不可欠です。具体的な目標設定、透明性のあるコミュニケーション、継続的なトレーニングと評価を通じて、持続可能で実質的な変化を実現することが重要です。

優秀な人財が辞めない組織づくりについては、以下の記事で解説しているので併せてご覧ください。

 

8, まとめ

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。

ISO30415について理解を深めることはできたでしょうか。 ISO30415は、多様性と包括性の推進に焦点を当て、企業が多様な人材を受け入れ、公平な環境を提供するためのガイドラインを提供しています。 

D&Iの本質を理解し、組織改革に落とし込むことが重要です。そのためには、社員全員が能力を発揮できる環境を構築していくことが大切です。

社内で組織づくりを進めていく人は今回の記事を参考にしてください。

弊社のチームマネジメントツールについて

  • チームメンバーの心身状態が見えていますか?
  • 目標達成に向けたメンバーマネジメントができていますか?

こんな課題を解決したく弊社はチームマネジメントツール【StarTeam】を開発しました。

チームワークを見える化し、チームリーダーのマネジメント課題解決をサポートします!

StarTeam

  • チームやメンバーの状態の可視化
  • 状態に応じた改善アクションの提供
  • 改善サイクルの自走化

ができるサービスとなっております。

目標達成に向けたメンバーマネジメントにより

  • 離職率が約30%→約15%への改善
  • 残業時間約1/3への改善

につながった実績が出ている企業様もございます。

ぜひ以下のバナーをクリックし詳細をご覧ください。

-相乗効果