成果主義は、1990年代後半以降に急速に普及してきた評価制度です。従来の年功序列とは大きく異なる評価基準や評価方法であるため、基礎知識を習得したうえで導入を検討することが大切です。
本記事では、成果主義の特徴や年功序列との違い、メリット・デメリット、導入のコツ、成功事例・失敗事例まで詳しく解説します。
1. 成果主義とは
成果主義とは、企業の業績や個人の成果に応じて報酬や昇進・昇格を決める仕組みのことです。日本がバブル崩壊とともに経済が大幅に落ち込んだのに対し、成果主義を採用している欧米諸国の企業は大きな影響を受けませんでした。そこで、1990年代後半から日本でも成果主義を導入する企業が増加し始めました。
2. 年功序列との違い
年功序列とは、勤続年数に応じて報酬や昇進・昇格を決める仕組みのことです。従来の日本で主に採用されてきた制度であり、経験年数が長くなればなるほどに能力も高くなるとの考えに基づき策定されています。
成果主義と年控除列の違いについて詳しく見ていきましょう。
評価・報酬の決定方法
成果主義は、個人の業績や実績に基づいて評価や報酬を決定する制度です。一方、年功序列は勤続年数や経験に基づいて評価や報酬を決定します。たとえ十分な成果を挙げていなくとも高い報酬を受け取ることができます。
昇進スピード
成果主義は、個人の能力や実績に基づいて早期に昇進することが可能です。優れた成果を上げたり、新しいアイディアを提案したりすることで、年功序列の時代においては考えられないほどに年齢が若い人が重要なポジションに就任するケースもあります。
一方、年功序列では勤続年数に応じて昇進が決まるため、優れた成果を挙げていたとしても早期に重要なポジションに就任することは困難です。
3. 成果主義が注目されている背景
成果主義が日本で注目されている理由について詳しく見ていきましょう。
1人の従業員が生み出す利益の重要性が高まっている
内閣府の「令和2年版高齢社会白書(全体版)」では、日本では高齢化が進行していることが示されています。65歳以上の人口と15~64歳の人口の比率を見ると、現役世代(15~64歳の人々)の割合が減少しています。つまり、労働人口の減少により、1人の従業員が生み出す利益の重要性が高まりつつあるのです。
昭和25(1950)年では、1人の65歳以上の人々に対して12.1人の現役世代がいたのに対して、平成27(2015)年には65歳以上の人々1人に対して現役世代はわずか2.3人です。
今後も高齢化は進み、令和47(2065)年には65歳以上の人々1人に対して現役世代は1.3人にまで縮小するとされています。
多様な勤務形態の登場
近年、多様な勤務形態が企業や組織内で導入されており、その中でもフレックスタイム制やテレワークなどが注目を集めています。
従来の定時制勤務から、柔軟な働き方が求められるようになった背景には、労働環境の多様化や技術の進化が挙げられます。従業員のライフスタイルの多様化への対応や、通勤のストレス軽減、仕事とプライベートのバランスの向上などを目的として、柔軟な働き方を実現できるように取り組まれています。
このような勤務形態においては、従業員のモチベーションを低下させないための対策が欠かせません。その1つとして、成果主義が注目されています。
グローバル人材の確保が急がれている
近年、技術の進化や国際市場の拡大により、経済のグローバル化が急速に進んでいます。このような状況下で企業は、より広い視野を持ち、多様な文化や価値観に対応できる人材を確保することが重要です。
しかし、従来の日本企業における年功序列制度は、年齢や勤続年数を基準にした昇進や評価が行われるため、新たな価値や視点を持つ若手や中途採用の人材に対して十分な評価を与えることが難しい場合があります。これにより、国際的な視野を持つ才能ある人材が採用や昇進の際に選ばれにくいという問題が浮き彫りになっています。
そこで、実力やスキルに基づいた評価や昇進制度である成果主義が注目されています。
成果主義を求める人が多い
フォー・ノーツ株式会社の「年功序列をはじめとする人事評価制度に関する意識調査によると、「人事評価において何を最も重視するか」という質問に対して、「成果・業績など、仕事の結果」と回答したのが35.5%、「行動・能力など、仕事のプロセス」と回答したのが29.5%でした。
また、年功序列を採用している企業においては、「経験・勤続年数・年齢などを重視する制度」を支持しない従業員が多いこともわかりました。このように、成果主義を求める人が多いため、企業には制度の変更を検討することが求められます。
4. 成果主義を導入している企業の割合
日本の人事部の「人事白書調査レポート2023」によると、評価・報酬制度として「能力主義」を採用している企業の割合は76.7%と最も高い結果となりました。能力主義は個々の能力やスキルを評価の基準とする制度です。
次いで多いのが成果主義で、73.3%の企業が導入しています。そして、仕事の役割や職務内容を評価の基準とする職務主義は68.7%の企業が導入しています。このように、年功序列以外の制度を導入している企業が多いことがわかります。
5. 成果主義のメリット
成果主義を導入した結果、業績が上がった企業もあれば下がった企業もあります。メリットとデメリットの両方を確認のうえで、導入を検討しましょう。まずは、成果主義のメリットから詳しく解説します。
従業員がやりがいを感じやすい
フォー・ノーツ株式会社の「年功序列をはじめとする人事評価制度に関する意識調査によると、「やりがいを持って働ける環境があると思いますか」という質問に対し、年功序列制度を採用していると答えた回答者グループでは、「やりがいを持って働ける環境がない」と答えた割合が著しく高い結果となりました。具体的には、「あまりないと思う」が42.3%、「まったくないと思う」が21.1%です。
一方、「やりがいを持って働ける環境がある」と答えた割合が最も高かったのは、「やや年功序列である」と答えた回答者グループでした。このグループの60.2%が「やりがいを持って働ける環境がある」と回答しました。内訳は、「すごくあると思う」が3.7%、「まああると思う」が56.5%です。
この調査結果から、年功序列よりも成果主義の方が従業員がやりがいを感じやすいことがわかります。
生産性が高まる
成果主義は業績や仕事の成果に基づいて評価や報酬が決まるため、社員はいかに成果を出せるかに注力する傾向があります。そのため、生産性が高まるとともに社員同士の競争意識が醸成されるでしょう。
余計な人件費がかかりにくくなる
成果主義の導入によって、組織内で余計な人件費がかかりにくくなるとされています。
従来の年功序列では、勤続年数に応じて昇給が行われるため、社員が勤続年数を積むごとに人件費が上がります。この結果、長期間勤続する社員への給与支出が増加し、企業の人件費が徐々に高騰する傾向があります。
成果に対して給与が高すぎると、企業全体の利益に影響を及ぼしかねません。
一方、成果主義では能力や成果に基づく評価によって、社員の貢献度に応じた報酬が与えられるため、公平な評価が可能です。利益につながらない昇給や報酬を抑えることで、企業の安定性が高まるでしょう。
採用の効率性が高まる
企業が成果主義を導入していることを事前に伝えることで、適性のある人材が選考に参加するようになります。企業の理念や文化に合致した人材が選考に参加し、採用効率が上がります。
6. 成果主義のデメリット
続いて、成果主義のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
社内の雰囲気が殺伐とする可能性がある
成果主義の企業では、個人やチーム同士の競争が激化する可能性があります。好ましい面もあるものの、目標達成や成果を追求するあまり協力やチームワークが疎かになる可能性があることに注意が必要です。
また、個人の成果やパフォーマンスが評価や報酬に直結するため、成果を上げるプレッシャーや失敗した場合の不安が高まることが考えられます。このようなストレスや不安が社員のメンタルヘルスを悪化させ、退職につながる可能性も否定できません。
挑戦しづらくなる
成果主義のもとでは、安定的な業績や目標の達成が強く求められます。これは、成果を上げることが評価や報酬に直結するためです。新しいアイデアやプロジェクトに取り組む際は失敗のリスクを考慮しなければなりませんが、失敗によって評価や報酬が下がることを懸念して挑戦できなくなる可能性があります。
偽装が起こりやすい
売上報告の偽装は、業績を良く見せるために売上データを意図的に操作する行為です。成果主義の企業では、売上や目標の達成度が評価や報酬に直結するため、売上報告の数字を偽装しようとするケースがあります。
貢献度が考慮されず理不尽に感じることがある
成果主義の環境下では、成果や結果が評価や報酬に大きく影響するため、個人やチームの貢献度や努力が軽視されることがあります。これにより、従業員が理不尽な評価を受けたり、公平性を欠く評価が行われたりすることが考えられます。
例えば、プロジェクトの成功や利益が高く評価される一方で、その達成に尽力した個人の貢献度や努力が見過ごされることがあります。
このような状況では、従業員が自身の努力や貢献が適切に評価されないと感じ、モチベーションの低下や不満が生じるでしょう。
成果主義が適した業種は限られている
成果主義は、すべての業種や職種に適しているわけではありません。生産性や売上高などの数値で業績が明確に評価できる業種に適しています。例えば、営業部門や製造業などが該当します。
また、目標やターゲットを設定してそれを達成することが重要です。目標が設定しやすい広告業界やプロジェクトマネジメントなどにも向いているでしょう。一方で、事務やフロント受付などは企業の利益に直結する業務ではないため、成果主義による正当な評価が困難です。
組織内に格差が生まれるリスクがある
成果主義の導入によって、組織内に格差が生まれるリスクが伴うことがあります。成果主義では、成果の高い個人や部署に高い報酬が与えられる一方で、成果が低い個人や部署は報酬が低くなります。これにより報酬格差が拡大し、組織内のモチベーションや士気に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
7. 成果主義の導入を成功させるコツ
成果主義の導入を成功させるためには、従業員に理解を促すほか、人事評価制度の見直しや移行期間の設定などが必要です。次のコツを押さえて成果主義を導入しましょう。
従業員へ十分に説明して理解を促す
成果主義を導入する際は、従業員への十分な説明が必要です。これまで年功序列で報酬や評価が決まっていたところ、急に成果で決まるようになれば多くの従業員は納得できないでしょう。特に、年齢の影響で高い給与を得ている従業員からは、不満の声が出ることが予想されます。
成果主義へ移行する理由、具体的な評価方法、想定されうるトラブルとその対策などを十分に説明し、理解を促すことが大切です。
人事評価制度を見直す
成果主義の基本となるのは、仕事の成果に基づいた評価です。そのため、成果を適切に評価するための人事評価制度を見直す必要があります。
具体的な成果物や目標達成度、プロジェクトへの貢献度などを評価基準として明確に定めましょう。また、従業員が正当な評価を受けているかどうかを判断できるように、評価の透明性を保つことも大切です。
年功序列からの移行期間を設ける
成果主義への移行は、組織全体に大きな変化をもたらすため、慎重に計画を立てたうえで段階的な実施が求められます。年功序列から成果主義への移行期間を設けることで、従業員の負担を軽減できるでしょう。
特に長期間勤務してきた従業員にとっては収入が大幅に減少する可能性があります。そうなれば退職せざるを得なくなることも予想されます。
以下に、移行期間の例を紹介します。
1年目:報酬の一部を成果に基づいて評価します。報酬の比率は従業員に対する影響を考慮して設定しましょう。
2年目:成果主義の比率を増やし、報酬の大部分を成果によって評価します。
3年目以降:完全な成果主義への移行を実施します。
移行期間とその内容については、企業によって最適解が異なります。現状や業種などを踏まえて、慎重に計画しましょう。
明確な目標を設定する
成果主義の導入においては、明確な目標の設定が重要です。特に定量的な目標を設定することで、従業員が自身の業績を具体的に評価し、成果を追求しやすくなります。
SMARTの法則に基づいて目標を設定しましょう。
SMARTの法則とは、具体的(Specific)、計測可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性(Relevant)、期限(Time-bound)の条件を満たした目標設定の方法のことです。
例えば、「次の四半期までに売上を20%増加させる」、「来期までに個人目標を前年比30%アップを目指す」などと定めます。
上記の例は、計測可能な数値や期限などを具体的に指定しているため「具体的(Specific)」、「計測可能(Measurable)」、「期限(Time-bound)」を満たしています。
また、到底実現できない目標ではなく、20~30%と定めているため、「達成可能(Achievable)」も満たしているでしょう。そして、売上を増やすという目的に対して売上20%アップ、個人目標を増やすという目的に対して、前年比30%アップという目標を定めているため、「関連性(Relevant)」も満たしています。
定期的なフィードバックの質を高める
従業員への定期的なフィードバックは成果主義の導入において重要な要素です。フィードバックを通じて従業員は自身の業績や成果を客観的に理解できるため、改善点や成長の方向性を明確化しやすくなります。
フィードバックの質を高めるために、以下のポイントを押さえましょう。
ポイント | 方法 | 効果 |
具体的なデータと事例を用いる | フィードバックを行う際には、具体的なデータや事例を挙げる | 根拠があるため納得感を与えやすい |
肯定的な側面も含める | フィードバックは否定的な面だけではなく良かったところも伝える | 従業員の強みや成功体験を認めることでモチベーションが高まる |
目標設定と連動させる | フィードバックは目標設定と連動して行う | 成果主義の目的に合致した評価につながる |
個々の強みを把握してチャンスを与える
成果主義の下で従業員の個々の強みを最大限に活かすことは、組織の成果を高めるために重要です。従業員が得意とする分野やスキルを把握し、それに応じて適切なプロジェクトや任務を割り当てることで、モチベーションと生産性の向上につながります。
リーダーシップに優れた人材を確保する
成果主義を導入する際には、リーダーシップに優れた人材が必要不可欠です。リーダーシップ力のある管理者は従業員を適切に指導し、目標達成に向けてサポートします。また、従業員とのコミュニケーションを円滑に行い、フィードバックや方向性のアドバイスができる人材が望ましいでしょう。
多様な働き方を取り入れる
成果主義の下で従業員の働き方を多様化することで、個々の能力を最大限に発揮しやすくなります。例えば、フレックスタイム制やテレワークを導入することで、従業員自身が気持ちよく働ける環境で高い生産性を発揮できます。
評価者のトレーニングを行う
成果主義の評価制度を正しく運用するためには、評価者(上司やマネージャー)のトレーニングが重要です。評価者は適切なフィードバックの提供や目標設定のサポートを行う役割を担っています。評価者が従業員の成果を適切に評価し、成長に繋がるアドバイスを提供できるようにするために、評価者向けのトレーニングプログラムを設けましょう。
8. 成果主義と年功序列を組み合わせるのも方法の1つ
従業員の能力や成果を評価する一方で、勤続年数に応じて報酬や昇格などを考慮することも1つの方法です。成果主義と年功序列の両方の要素を取り入れると、それぞれのメリットを得ることができます。
年功序列は勤続年数が長くなるほどに報酬が上がるため、成果を挙げるよう努力しつつも長く勤める気持ちを促せるでしょう。
9. 成果主義の成功事例
成果主義の導入を検討する際は、成功事例と失敗事例の両方を確認しておくことが大切です。まずは、成果主義の成功事例から詳しく見ていきましょう。
花王
花王は、部門や職種ごとに特性を考慮した「職群制度」を導入しました。評価基準を部門の業務や職種の特性に合わせて設定し、社員が納得しやすい評価を行うことができるようになりました。数字だけでなく、過程や習熟度なども考慮することで、従業員のモチベーションアップを実現しています。
また、業務プロセスの実現度合いを評価の対象に組み込むことで、チームワークや連携の強化に成功しました。
武田薬品工業
武田薬品工業は、最初に経営陣や管理職を中心に成果主義を導入しました。その結果、組織内で成果主義の考え方が浸透する土台を築くことに成功しました。また、厳しい目標管理と報酬における大きな差別化により、高い成果や積極的な改革への姿勢を示す人材が報酬面で優遇される仕組みを構築しました。
成果主義の評価基準として重視していたのは、「コンピテンシー(行動特性)」と「アカウンタビリティ(成果責任)」です。コンピテンシーでは「職務知識」「問題解決」「仕事への取り組み姿勢」「チームワーク」などを評価基準として従業員に公開しました。
10. 成果主義の失敗事例
続いて、成果主義の失敗事例について詳しく見ていきましょう。
日本マクドナルド
日本マクドナルドは、若手社員の成長を促進し実力主義の文化を育てるために、一度は定年制を廃止して実力主義の意識を高める試みを行いました。しかし、ベテラン社員による若手社員の育成が疎かになる課題が浮き彫りになりました。
このため、定年制を復活させるとともに、高年齢者雇用安定法に対応する形で65歳までの再雇用制度を導入しました。この制度では、雇用継続を希望する社員の健康や能力を判断して、年単位で雇用契約を締結します。
富士通
富士通は、成果主義を導入しても実態は年功序列のままであり、評価や報酬の仕組み、管理体制などが不適切だったことから、社内の混乱やモチベーション低下を招きました。
成果主義の導入には、単なる制度の変更だけでなく、企業文化や考え方の変革が必要です。富士通の場合、成果主義を導入しても組織の考え方が年功序列のままであったため、本質的な変化が生まれなかったと言えます。
また、成果主義では評価基準とその透明性が重要です。富士通は評価の基準が不明確であり、評価のフィードバックが不十分であったため、社員は自身の評価や評価基準を理解しにくく、モチベーションの低下につながりました。
11. まとめ
成果主義は従業員のモチベーションや生産性の向上につながる一方で、評価制度の策定や従業員の理解といった条件を満たさなければ失敗する恐れがあります。日本では多くの企業が成果主義にシフトしつつあるからといって、焦って導入を急がないことが大切です。今回、解説した内容を参考に、成果主義の導入を検討しましょう。
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