この記事で解決できる悩み
人材戦略や人的資本の最新動向を迅速にインプットしたい人事部門の皆様や経営者の方々、お忙しい日々の中で、多くのPDF資料を読む余裕はないという課題を抱えていませんか?そこで、本記事では、人材版伊藤レポートの最新版である「人材版伊藤レポート2.0」の要約をご紹介します(2024年3月時点)。
さらに、従来の伊藤レポートの系譜や人材版伊藤レポートがなぜ策定されたのか、その背景に迫ります。これにより、多忙な日常の中でも、最新の人材戦略に関する洞察を得ることができ、経営戦略に活かすヒントを得ることができるでしょう。
1. 人材版伊藤レポート2.0の概要と注目される背景
人材版伊藤レポート2.0とは
「人材版伊藤レポート2.0」は、経済産業省主導の「人的資本経営の実現に向けた検討会」によってまとめられた報告書であり、2020年に公表された「人材版伊藤レポート」をベースに、さらに深く議論された成果です。この検討会では、伊藤邦雄氏を座長とし、経営戦略と人材戦略の連動を重視し、企業価値の持続的向上を図るためのアプローチが模索されました。
日本では、「企業は人なり」「人材は石垣」という言葉やことわざがある通り、人材の価値を重んじる視線が重要視されています。しかしながら、日本企業が実際に社員を大切にしてきたかどうかが問われています。そこで2019年に結成された研究会が「人材版伊藤レポート」をまとめました。
「人材版伊藤レポート」では、「3P・5Fモデル」を提唱し、3つの視点と5つの共通要素を提示しています。
3つの視点(3P)
- 経営戦略と人材戦略の連動
- As is‐To beギャップの定量把握
- 人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着
5つの共通要素(5F)
- 動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化
- 知、経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
しかし、問題を認識するだけでは人材の価値は向上しません。そのため、2021年に再度、「人的資本経営の実現に向けた検討会」が開催され、具体的なアイデアや施策、視点を提唱し、参加者を実践的にサポートすることに焦点を当てました。
人材版伊藤レポート2.0が注目される背景
2020年に「人材版伊藤レポート」が公開されたのち、多くの経営者や人事部の方々に影響を与え「人的資本」や「人的資本経営」という単語がトレンドになりつつありました。また欧米の流れもあり人的資本の情報開示への注目が上がり、人的資本という言葉の注目度がどんどん高まっていきました。
一方で開示されている具体的な人的資本の向上事例やデータが不足していたため、より実践的なガイドラインとなる当レポートに注目が集まっていると考えられます。
日本での人的資本の情報開示の義務化が決定し情報開示元年となる本年は、非常に新しい発見があると考えると同時に課題がたくさん見える年になるでしょう。これらの開示資料や他資料で多くの実践事例を学びましょう。
2. 伊藤レポートとは|概要からこれまでの系譜を解説
「人材版伊藤レポート」や「人材版伊藤レポート2.0」、「伊藤レポート」など多くのレポートの多さに困惑をしていらっしゃいませんか?人的資本について学んでいると上述した伊藤レポートに関する情報が多々出てくる一方で、実際に検索してみると色々な伊藤レポートが存在しどれを読めばいいのか分からないことがあります。
当章では、伊藤レポートの概要とこれまでの伊藤レポートを軽く紹介します。
伊藤レポートとは
伊藤レポートとは、
2014年8月に経済産業省が公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」プロジェクトの最終報告書
です。この報告書は、一橋大学教授である伊藤邦雄氏が座長を務め、企業と投資家の対話を通じて持続的な成長に向けた資金調達と企業価値向上の課題を分析し、提言しています。また2017年にはアップデート版が公開されました。
そんな伊藤レポートから、より組織体系や人的資本に特化した内容が人材版伊藤レポートとして公開されました。
伊藤レポートの系譜
2024年3月時点で5つのレポートが公開されてきました。それぞれ概要を軽く紹介します。
伊藤レポート(2014年)
2014年に公表された「伊藤レポート」は経済産業省が主導し、伊藤邦雄氏を座長としてまとめられた報告書です。このレポートは、日本企業の収益性が低迷し、企業と投資家の対立が深刻化している背景から生まれました。企業と投資家の間の対話を通じて、持続的な成長に向けた資金調達と企業価値の向上に焦点を当てています。
当レポートの基本的なメッセージは以下の通りです。
- 持続的成長の障害となる慣習やレガシーとの決別を
- イノベーション創出と高収益性を同時実現するモデル国家を
- 企業と投資家の「協創」による持続的価値創造を
- 資本コストを上回る ROE を、そして資本効率革命を
- 企業と投資家による「高質の対話」を追求する「対話先進国」へ
- 全体最適に立ったインベストメント・チェーン変革を
伊藤レポート2.0(2017年)
伊藤レポート2.0とは2017年に公開された「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会 報告書」のことです。このレポートは、2014年に公開された伊藤レポートのアップデート版であり、企業の戦略的投資に焦点を当てています。また、企業と投資家の協力関係の構築が収益性向上の鍵であることを示唆しています。
当レポートでは8つの提言が示されています。
- 企業と投資家の共通言語としての「価値競走ガイダンス」策定
- 企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立
- 機関投資家の投資判断、スチュワードシップ活動におけるガイダンス活用の推進
- 開示・対話環境の整備
- 資本市場における日財務情報データベースの充実とアクセス向上取組
- 政策や企業戦略、投資判断の基礎となる無形資産等に関する調査・統計、研究の充実
- 企業価値を高める無形資産(人的資本、研究開発投資、IT・ソフトウェア投資等)への投資推進のためのインセンティブ設計
- 持続的な企業価値向上に向けた課題の継続的な検討
人材版伊藤レポート(2020年)
2020年に公表された人材版伊藤レポートは、人材戦略の重要性に焦点を当てた報告書です。人材の有効活用と組織体制の構築が課題とされ、企業の成長と競争力向上に貢献するための具体的な施策が提案されました。このレポートは、企業が人材を戦略的資源として捉え、そのポテンシャルを最大限に引き出すことの重要性を強調しています。
人材版伊藤レポート2.0(2022年)
こちらが当記事で説明しているレポートです。2022年に公表された当レポートは、冒頭にも説明した通り、人材版伊藤レポートのアップデート版であり、より具体的な施策や視点が示されました。企業が人材を活用し、持続的な成長を実現するためのアイデアや施策が提案されています。
伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)
伊藤レポート3.0は2022年8月に公開された「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)報告書」のことです。こちらのレポートが現在(2024年3月時点)最新のレポートとなります。
このレポートは、企業や投資家などが協力して長期的かつ持続的な企業価値を向上させるために作成されました。このレポートでは、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の重要性が強調され、社会の持続可能性と企業の成長力を統合することが求められています。
伊藤レポート3.0では、企業と投資家など市場プレイヤーの対話がSX実現に向けた強力な価値創造ストーリーを生み出すことを促進する重要性が強調されています。
なぜ人材版伊藤レポート2.0が策定されたのか
冒頭でも軽く説明した通り、2019年に経済産業省が設立した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」から生まれ、2020年9月に公開された「人材版伊藤レポート」は、日本企業が直面する人材戦略の重要性を浮き彫りにしました。
同レポートは経営者や人事担当者らの関心を集めました。企業価値を決定づける無形資産の中核は人材であり、これを高めることが企業価値の持続的な向上に繋がると強調されています。特に、ガバナンス改革の文脈や持続的な企業価値創造という視点から、人材戦略を考える必要性が指摘されました。
そういった観点をまとめた「人材版伊藤レポート」では、「経営戦略と人事戦略が同期しているか」ということを強調し、多くの担当者に反省の機会を与えたことでしょう。さらに2021年には、改訂されたコーポレートガバナンス・コードに「人的資本への投資と開示」が盛り込まれ、レポートの影響力が確認されました。
これらの流れから、多くの担当者に新たな視点を与えたものの、問題を受け止めるだけで具体的なアクションがなく、人材価値も企業価値も高めることができない状況が生まれました。そこで2021年7月に伊藤邦雄氏を中心に「人的資本経営の実現に向けた検討会」を立ち上げ、具体的なアクションにつながるよう実践的なガイドラインを提示する活動が始まりました。その内容が盛り込まれたものが「人材版伊藤レポート2.0」です。
3. 人材版伊藤レポート2.0の詳細解説
「人材版伊藤レポート2.0」では大きく8つの取り組みについて紹介されています。
- 経営戦略と人材戦略を連動させるための取組
- 「As is - To be ギャップ」の定量把握のための取組
- 企業文化への定着のための取組
- 動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組
- リスキル・学び直しのための取組
- 社員のエンゲージメントを高めるための取組
- 時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組
この取り組みは「人材版伊藤レポート」で提示された「3P・5Fモデル」という枠組みを人的資本経営で具体化させる際に取り組むべき内容やポイントを示しています。またレポートの狙いにも最も重要なことは、8つの取り組みの1つである「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組 」であると示されています。「何から手をつけるべきか分からない」という状態の担当者はこちらから始められるように、本記事ではより噛み砕きつつもまとめた内容を紹介いたします。(他の取組については今回は割愛させていただきます。)
また本記事では紹介しませんが、実際の「人材版伊藤レポート2.0」では各内容に対して【実践事例集での取組事例】で取り上げられている企業についても記載があります。
より具体的な実践事例を知りたい方は、ついてはこちらも併せてご覧ください。
【前編】3P5Fモデルの取り組み事例紹介 -人材版伊藤レポート‐
【後編】3P5Fモデルの取り組み事例紹介 -人材版伊藤レポート‐
経営戦略と人材戦略を連動させるための取組
急速な経営環境の変化において、持続的な企業価値の向上には、経営戦略と密接に結びついた人材戦略の計画と実施が不可欠です。自社に最適な人材戦略を検討する際には、経営陣が主導し、経営戦略との連携を意識しながら、重要な人材の課題に対する具体的な行動やKPIを考えることが必要でしょう。
CHROの設置
経営戦略と人材戦略の連携を強化するためには、責任者を明確に定めることが重要です。経営企画室の担当者と人事部の担当者の二者で進めるなどは得策ではありません。CHROは本社内で戦略設計等の経験だけでなく、事業サイドでの実務で結果を出した方などが担うのが良いでしょう。また経営戦略と人材戦略の策定と実行は本来CEOの責務ではありますが、CHROが主導することが適切です。ただしあくまで主導であり、責任を一任するのは良くないと言えます。
上記のようにCHROの必要性を理解した上で、CHROの存在をより効果的にするためにも以下の工夫が求められます。
一つは、CHROの役割設計です。従来の人事部長や人事に関する役員が担ってきた役割や責務とどう差別化するのか社内で議論することが重要と言えるでしょう。この役割については各企業が設計すべきではありますが、一般的には以下のものが含まれます。
- 経営戦略の人材面の課題の把握、改善提案、実行
- 人材戦略の具体的施策を経営陣に提示、議論の主導
- 人材戦略に連動するKPI達成に対する責務
- 企業文化浸透に対する責務
- ステークホルダーに対する経営戦略の人材面に関わる対話
他にも「計画的な候補者育成」や「経営陣を中心とした意識変革、CHROへの支援」が工夫として挙げられます。
CHROについては、LEADERSでも詳しく紹介していますのでぜひ併せてご覧ください。
CHROとは?人事部長との違いやその役割、求められるスキルなどを解説します
全社的経営課題の抽出
CEOとCHROは、総合的なフレームワークである「価値協創ガイダンス」などを利用しながら、経営戦略の実現に影響を与える人材面の問題を整理する必要があります。特に企業固有の重要な課題とそれに対するアプローチを示し、改善の進捗状況を取締役会などで共有しなければなりません。
「価値協創ガイダンス」についてはこちらも併せてご覧ください。
人的資本開示の基本|対象企業,時期,中小企業も準備すべき理由とは?
この取組を進める上では、CHROから経営陣に対して積極的に問い、課題の優先順位付けと解決に必要な時間軸の明確化が必要です。
KPIの設定、背景・理由の説明
人材戦略を立案し、進行状況に応じて速やかに修正を行うためには、目指すべき組織のあり方や必要な人材を具体的に考え、KPIを設定することが欠かせません。KPIを設定するだけでなく、その背景や理由を明確に説明することで、社員に対して戦略の説得力を高め、行動の変化を促すことが期待できるでしょう。
人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
自社の各事業に即した迅速な人事運営が要求される一方で、経営環境の変化に対応するため、全社的な人材戦略の策定と実行がますます重要になっています。人事と事業の両部門が企業価値と事業価値の向上をリードし、経営戦略と人材戦略の一体化を推進するべきでしょう。
そんな中、各事業で機動的な人事制度の運用を行うには、人事の専門知識を持つ人の支援が必要です。しかし多くの場合、人事部門にはそのような支援を行うだけの体力がないため、人事部門の支援機能の強化が今後の企業価値向上の鍵となるでしょう。
サクセッションプランの具体的プログラム化
CEO・CHROは、優れた能力を持つ20・30代の社員を早期に見極め、経営者やリーダーとしての重要な役割を果たす機会を提供するべく、取締役会などで共有すべきです。
指名委員会委員長への社外取締役の登用
CEO・CHROは、将来の企業経営を担う人材が適切に選ばれるかどうかを、社外取締役が適切に評価できるように、その責務を担える社外取締役の選出について議論する必要があります。
昨今の日本の企業統治改革の進展により、次期経営陣の選出や育成における指名委員会の責務が日々重くなっています。その指名委員会の委員長を社外の人が務めることで、内部の枠組みに捕らわれず、次期経営陣の選出に公平な意思を示すことができるでしょう。
役員報酬への人材に関するKPIの反映
CEO・CHROは、人的資本経営の推進こそが最も重要な仕事だと理解し、役員報酬の一部に、人的資本に関する目標や成果と紐づいた仕組みを導入することを検討し、連携するべきでしょう。
4. まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。
人材版伊藤レポート2.0について理解を深めることはできましたか?
今回は人材版伊藤レポート2.0について説明してきましたが、LEADERSでは他にも人的資本についてや人的資本の情報開示について、ISO30414についても解説しています。ぜひ人事担当者の方や経営者の方はチェックしていただけると幸いです。
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